女子どもを弱いとする今のこの国の状況がどうしても嫌いだった。いくら肉刺を潰して刀を振るっても誰も見てくれないし認めてくれない。戦乱の世に名を馳せるのはどれもこれも男の名ばかり。私は成ろうと思った。この世で最も美しい鬼になろうと。

血と紅に人々が半狂乱になったり泣き叫んだりしている中に、私は一人で座り込んで長い息を吐いた。誰が見ても女とわかるよう、誰にも負けないよう、誰をも魅了するように。長く伸ばした黒い髪は邪魔になるけど結ったりしない。裾の長い着物は邪魔になるけど洋服を着たりしない。強いプライドと実力を持って私は次第にこの戦乱の世に名を馳せる侍へと成長していった。

どうせ女だろう、そう言ってふざけた刀を私に向ける天人も人間も皆皆めった刺しにしてやった。気分が良かったけど、それだけだった。こんな事をして何になるんだろうと、私は醒めてしまっていた。

その頃に、ある侍に会った。血なまぐさい戦場に刀を携え血に汚れることなく立っている私を見ても、うんともすんとも言わなかった。つまらない。この男も殺してしまえばいい。私は当初の目的をすっかり忘れていた。

「お前、ほんとに女?」

ひらり、と放った重い一撃を片手で受け止めた侍は、その右手の刀をかたかたを揺らしながら私の目を見た。彼は驚いているようで、そのことに私も驚いた。どうして、この男は私を馬鹿にしないのだろう。目が真っ直ぐに私という人間を見ている。男とか女とか大人とか子どもとか、そういうのではなくて、人間として私を見ている。その強い瞳。私は今始めて本物の侍に出会ったのだと感じた。涙が出た。男は慌てて私の顔を覗きこみ、長く伸ばした黒髪に戸惑いながら触れた。暖かい掌だった。

わたしがかわる瞬間