かずまきゅんで不健全

あいつは体を売っている。一言で言えばこうだ。だけど、そんな陳家な言葉じゃ表せないほどの感情があいつの中にはあるはずだ。僕はつい先週のあいつを思い浮かべた。すっかり痩せて、おっさん好みな体型になって、化粧も服装もばっちりで、世の中を見下したような目をしていた。それは、形は違えど確かにあの頃の僕に似ていた。あいつは何故か学校の中で僕にだけ話しかけてきた。どうしてかは解らない。今の僕のように、僕らが似ているような気がしたからだろうか。そうだったら、少し嬉しい。

「池沢くん」
「何」

席に座ってケータイを弄る僕を、すぐ横で見下ろして離しかけてくる。僕が見上げると、その生気のまったくない目が少し笑う。毎日楽しく過ごせたら、その死んだ目ももっと綺麗に輝くのだろう。可愛そうだ。あいつが、あの頃の僕が。大きく胸元を開けたワイシャツの、首の付け根から見え隠れする大きなしろいガーゼと、時折袖から見える痣だけで、あいつが家でどのような扱いを受けているのかは重々理解できた。大方金を稼ぐために体を売って、なんとか親に切り捨てられないように必死なのだろう。僕の推測は間違っていないらしく、彼女は体を売っていても金は持っていなかった。昼食を食べている姿はあまり見ない。昼休みはいつもぼうっと窓の外を眺めているだけ。

「わたし、死んだ方がいいかな」

僕の目は今きっと大きく見開かれている。なんてことを言うんだ。なんて哀しいことを。つらいのはあいつの筈なのに、僕の眼から涙が溢れそうだった。どうして世間は、こんなに純粋な奴を卑下に扱うのだろう。こんなに頑張っているのに。少しは報われたっていいんじゃないか。もうすぐ授業が始まるにも関わらず、僕はほっそい腕を掴んで教室を飛び出した。いつもは使われない旧校舎の一番端の教室。そこまで走って、足を止めると冷たい手の向こうに息を整える声が聞えた。

「僕は君が憎い、憎いよ」

とうとう涙が溢れた。あいつは強くならなくてはならない。僕に師匠が居たように。ほっそい体を組み伏せると、あいつは悲しそうに笑った。「たすけて」もう声も聞き取れないほどの声量で、あいつは確かにそう言った。憎くて憎くて仕方がない。この、僕の弱い心が。




You who runs away from the night are missed.



(夜を逃げるあなたが恋しい)
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