わたしは彼の名前を知
らなかった。知る必要
はないと思っていたし
、教えてもらえるとも
思っていなかった。
ネズミ
ただ、彼はそう呼ばれ
ていた。
どんな人間なのかはま
ったく知らなかった。
だけどわたしには到底
できないようなことを
している人だとは薄々
考えていた。まさか本
当にそうだったなんて
。
「…ここで待ってて」
そう言って本と子鼠た
ちを残してネズミは行
ってしまった。紫苑な
んていう人間が来てか
らだ。ネズミは人間ら
しくなった。
く や し い
何年も一緒にいるわた
しより、ネズミが、あ
の人をとるなんて。
待っていたらあの華奢
な腕はわたしを抱きし
めてくれるだろうか。
たとえわたしが、死ん
でいても
「お前だな、ネズミの
秘密を知っているんだ
ろう」
知らない
教えて欲しいくらいだ
耐え難いほどの苦しみ
のあと、わたしは死ん
だ
呆気ない最期だった。
何もしらないのに誰も
いない暗くて冷たい場
所で時間の感覚が無く
なるほどに殴られ詰ら
れ苦しめられた。
ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ
あなたのせいだ
あいしていた