そう、馬鹿だ。世界一馬鹿で宇宙一愛おしい、そんな奴だ。思わず笑ってしまうような理由でわたしたちから世界の軸を奪った天人は、数は多いはわ馬鹿力だわで徐々に侍の数を減らしてきた。信じられない確率で生き残ったわたしには、未来が見えない。いつか絶対この戦争が終わる時が来る。もし、もしもその時、わたしがまだ生きていたら、わたしは何をするんだろう。したいこともないから、ねえ、いっそのこと侍として死んでしまおうか。

今日も切る、斬る、きられる。天人をひたすら斬っては投げ、斬っては踏み潰し、今日もわたしは生き残る。だってわたしは誇り高い侍だから。わたしの世界の中心だった先生も侍だった。先生は争いが嫌いだった。先生の嫌っていた意味のない殺戮を、どうして今日もわたしは繰り返す。いや、違う。これは、意味のないことなんかじゃない。だって、これは、戦争だ。戦争。ああそうだ。先生は戦争も嫌いなんだった。ああ、それでもわたしは今日も、キル。

あん、とか、だめ、とかとにかく甘ったるい声が部屋を埋める。自分に自分でうんざりした。こんな嫌になってしまうような世界の中で、生き残った侍はまた、うんざりしてしまうような欲をわたしに吐き出す。こんな意味であなたに抱かれたって、わたしはなんとも思わない。痕が残るほど強く掴まれた腕が悲鳴をあげる。痛い、いたい。いたいよ。流れ落ちた涙は、意味のないもの。ばか、あまったるい声で呟いたって、きっとあなたは聞いちゃいない。流れた涙を舐められたって、それはわたしの望むものじゃない。ねえ、じゃあ、今だけ、今だけあなたを思う涙を流したって罰は当たらないでしょう。

わたしの涙を丁寧に舐めとったあなたは、また愛してるなんて言葉でわたしを狂わす。「あなたなんか、だいきらい」ああ、いま、わたし、泣いてるよ、あなたを思って泣いてるよ。ねえ、知ってるなんて言わないで、笑わないで。あなたは何もわかってない。ねえ、だから、そんな風に笑わないで。わかんない、わからない。あなたが何を思っているのか、わたしにはわからないよ。だから笑わないで、嫌な事があってもわたしにぶつけないで。痛い、痛いから。わたしが壊れてしまう。「どうせなら、一緒に死のうよ」

さあ、躍ろう。みんなで楽しく、大殺戮のはじまりだ。わたしはひとり、あなたもひとり。どうしてかって?それはね、わたしとあなたが、相手を殺してしまうから。今気付いたよ。先生が争いを嫌う理由も、あなたが笑う理由も。ぼろぼろと零れ落ちる涙を、あなたが舐め取る。血の味がしてまずい、だって。じゃあ、もう、さよならしなくちゃ。

戦争の只中の、ほんの小さなわたしとあなたは、きょうも僅かな命を奪って、軽い十字架を背負って、それをぶつけあって、そしていま、息絶えるのよ。

「さよなら、お元気で」

終る世界に言う




指を絡めあって最後に愛の言葉を言い合うんだ、けれども終わりはくる

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