いつものように学校から帰ってアパートの鍵を鞄から探していると、ドアの向こうから騒がしい音が聞えてくる。それに苦笑しながら鍵を開けて中に入る。するとそこには案の定彼らが居た。私をマスターと呼んで慕ってくれる彼らに、私は学校での疲れも忘れて思わず笑みをこぼしてしまう。私が笑うと彼らも嬉しそうに笑ってくれるから、それが更に私を喜ばせる。すごくいい。特に今日は皆元気が良くて、リビングに入るとテーブルの上に鎮座しているニヤリと笑ったダンボールの箱。皆はやく開けたかったけど私のために待っていてくれたらしい。ハサミでガムテープを切って中を開けると、中には緑色のパッケージが。「初音ミクだ!」レンが叫んで、みんなのテンションも最高値に達した。「中古だから、初期化しないとダメですね」カイトがビニールの包装を器用に剥がしてパッケージを開けた。皆すごく楽しみにしていたんだろう。もうPCはセットされていて、あとはもうインストールするだけになっていた。皆を代表して私がディスクをセットしてインストールすると、画面に緑色のツインテールの女の子が現れた。わあ、と静かな歓声があがる。「はじめまして。私があなたの新しいマスターになるの」「あ、あ……わ、わたし」画面越しに手を差し出すと、ミクは怯えたように身をすくめた。「…ミク?」「あっ、ごめんなさい!ごめんなさい」私が首を傾げるとミクは顔を真青にして謝りはじめた。カムイに目配せして、あたしはリビングから離れることにした。きっとミクは人間を恐がってる。「マスターはリリィと寝室にいるでごさる」リンとレンは「なんでー?」と首をかしげたけどルカがなんとかミクに気づかれないように理由を説明して二人とも納得したように画面に再び視線を戻した。寝室に入ってベットに飛び込む。安物アパートの壁は薄く、リビングの声が聞くことができる。「なんなのアイツ、意味わかんない」「リリィ、そんな事言っちゃだめだよ」「だって、マスターのこと」「私は大丈夫だから」きっと今の私の表情はちっとも大丈夫なんかじゃない。だから、リリィを困らせてるに違いない。「ふたりでここで、静かに様子を聞いてようね」「…うん」ふたりでそっと壁に耳をくっつけて、苦し紛れに笑ってみた。リリィも笑い返してくれたから、私は全然大丈夫。「ミクちゃん」「ごめんなさい…」「謝らなくてもいいよ、マスターはやさしい人だから」カイトが優しい声でミクに語りかけてる。カイトの言葉に、涙がでそうだ。「リリィ」「大丈夫、マスター」リリィの手を握って、小さく深呼吸した。「少しづつでいいから、私たちに話して?」ルカがそっと画面に触れているって事は、見えなくてもわかる。ルカならきっとそうして、ミクを少しは安心させて挙げられるんだろう。「わたし、前のマスターが望んでる歌、全然歌えなくて」小さな嗚咽紛れに聞えてくる声に、ルカが「うん」と優しい相槌を打つ。うちのボーカロイドは優しい子ばっかりだ。「有名Pの真似とか、してって言われても、できなくて」「うん」「できないと、マスターが役立たずって…」「うちのマスターはそんなこと、絶対言わないよ」リンが言い切った。さっきから私は泣いてしまいそうで仕方ない。ミクの今までのいきさつのこともそうだけど、皆があんまりにも優しくて、私を信頼しきってくれていて、涙が溢れてきそうだ。繋いだ手をきゅっと握りしめて、言葉の続きを待った。「うちのマスターはすっごく優しい人だから、もう一回会ってみよう?」「リリィとマスターもきっと、ミクに会いたがってる」「画面から出ておいでよ」「…いいの?」「もちろん」少しして寝室のドアが開けられた。皆に連れられて入ってきたミクに、私は思いっきり抱きつく「ほら、皆の言った通りでござる」「うっ…うえ、ごめんなさい、マ、スター」「ううん、いいの。ミク、ありがとう…」「あ!マスター泣いてる!」「ほんとだ、鼻まっかだよー!」「さっきからずっとああなのよ」「ちょ、リリィ!言わないでよ…あ、」「え?」「今ミク、私の事マスターって言った?」「え、はい…ダメですか?」「ううん!いいの!ありがとう!」
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