「凄く、嬉しかったの」

 幸せそうに笑みを浮かべる彼女の顔を視界の端で盗み見た。
 俺様が見たことも無い、綺麗な笑みだった。

 「だから、私」
 「そっか。おめでとう」

 聞きたくなかった。
 ずっと傍にいると信じて疑わなかった存在は俺様の知らないうちに俺様の知らない存在のところに行ってしまうと言う。

 「ねえ、じゃあさ」
 「うん?」
 「こんな昔話、しってる?」

 それはとてもとても哀しいお話で、あるお姫様に恋をした家来は結局顔をみたことすらない王子さまにお姫様をとられちゃうって話

 「でもお姫様が家来と一緒に居た時間は、王子様と一緒にいた時間よりも何十倍も長いんだよ」

 そう、それは昔の話ではなく
 もう直に訪れる未来の話。

 「お姫様は、きっと鈍感だったのね」

 そう言うお姫さまに
 俺は苦笑いを溢す事しかできなかった。




幸を知らぬ者は幸を語れぬ、哀を知らぬ者は哀を語れぬ



20100724