わたしにはかわいい後輩がいる。すごくめだっていて、かっこよくて、ちょっと近寄りがたいと思うこともあるけど、かわいい後輩だ。だけど彼はわたしの頭一つ分背が高いし、先輩であるわたしに敬語は使わないし、まるで同級生か、はたまたわたしの先輩のような感じだ。くやしいと思うこともあるけど、後輩っぽい高杉くんなんて高杉くんらしくない。高杉くんはいつも屋上にいる。わたしが何時間目にサボりに屋上に行っても、いつも高杉くんは既に屋上に居て、給水塔の上からあたしを見下ろして他の人には見せないような笑顔で笑う。その笑顔を見るたび高杉くんは本当にいい子なんだなあ、と思う。受験生なわたしも、こうして高杉くんと話すために毎日屋上にくる。高杉くんのおかげでわたしもすっかり問題児だ。高杉くんは外見のわりに読書が好きとか、ひとりの時間を大切にするタイプだ。高杉くんの時間をわたしなんかが共有していいものなのか、と一回屋上に行かなかった日があった。その日の放課後、玄関で仁王立ちしていた高杉くんに捕まってあたしは最上階の屋上まで走らされた挙句、どうしてこなかったのかと叱られた。ひとりの時間が好きなくせに、寂しがりやな高杉くんはやっぱりわたしのなかでは可愛い後輩だ。
この間、進路を決めるために二年生は担任の先生と各々面談をしたそうだ。去年のわたしもそんなことをした。その頃はまだ高杉くんを恐い後輩だと思っていて、いい子だったわたしは今の目標よりひとつレベルの高いところを目標にしていたなあ。話は戻って高杉くんは、そこで担任の先生に酷いことを言われてしまったらしい。わたしはその話を聞いて、その先生をなぐってしまった。なぐると言っても平手打ちだけど。そうして本当の問題児になったわたしは、同級生の友達を全部失って、丸一日高杉くんと一緒にいるようになった。だけど、後悔なんてちっともしていない。むしろよかったと思っている。
高杉くんが自ら自分の話をするのはすごく珍しい事だった。そりゃあ驚きもしたけど、それよりも嬉しい気持ちが多かった。だけど高杉くんのことをもっと知って、高杉くんが可哀想なほど純粋ないいこだってことを知って、なんだか少し恐かった。高杉くんはまるでそれがわかってたように哀しそうな顔をする。高杉くんはきっと、自分がどれだけ素敵なひとか知らないんだ。先生達も、ちっともわかってない。まるで沼にはまったみたいに一歩も動けない高杉くんを助けてあげたい。だけど、あたしにはその腕を掴んで引きずりだしてあげるだけの力がない。悔しかった。
だんだん高杉くんが荒れていくのを、あたしはその一番近くで見ていた。高杉くんが屋上に厚化粧の女子生徒を連れてきて「なにか」をしたり、あぶないことをしてるのを、あたしは曇りガラスの向こう側の世界を見ているかのように見えて、あれは、高杉くんがあたしに送っているSOSだったのに。あたしは屋上に行けなくなった。自分が情けなくて、見ていて痛々しいほど高杉くんの変わりように頭が混乱していて、とても高杉くんの顔を見れるような状態じゃなかった。それでも時間をかけて高杉くんに向き合おうと思えた。それはやっぱり、高杉くんがあたしにとって可愛い後輩だからだ。どんなに変わってしまっても、あの無垢な笑顔は絶対に変わらない。傷ついた高杉くんの小さな涙は、はりぼての涙なんかじゃない。高杉くんは、やっぱり高杉くんのままだった。必死に大人たちに自分の姿をアピールしてる高杉くんをどうしようもなく抱きしめたくなって、苦しくて、だけどやっぱりあたしにはその役目は重すぎて。これが恋なんだと、やっと気づいた。あの叱られた日みたいにノンストップで生徒玄関から屋上に駆け上がる。いろんな人が振り向く。高杉くん、高杉くん。
相変らず朝から屋上であたしを待ってくれている高杉くんの笑顔を、二週間ぶりに見たとき、とうとう涙がでた。悔しかった、むなしかった、怒りがこみ上げてきた。それでも、高杉くんのやつれた純粋な笑顔は、涙がでるくらい安心できた。だから、高杉くんを抱きしめた。ほそっこい体だった。「…先輩?」「高杉くん、好きだよ」


誰も望んでない宇宙

あたしには必要不可欠で、

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