いつも真っ直ぐを見ている。見上げるでもなく見下すでもなくなんの隔たりがあったとしても何事も真っ直ぐに見つめる、そんな女だ。だから俺に対しても高杉に対してもヅラに対しても坂本に対してもそこらへんの弱いやつらにもなんの差も無く接していた。だから誰とでも仲良くなったし、でも誰にも執着しなかった。それはきっと、あの女が尊敬した師を亡くしたからなんだろう。一番強いようで、いちばん弱かった。もう大切なひとつのものを失ってしまわないように、特別をつくらないように、そういうように生きていくと決めたんだろう。大いに立派な決心だと思う。もう傷付きたくない女の、懸命な判断だ。でも、その決心のせいで女は笑わなくなった。まったく笑わない訳ではない。さっきも言ったように分け隔てなく人に接することから人に好かれる。それはもちろん女の人柄の良さや、よく気が利くところも人に好かれる一因であることは確かだ。おもしろいことをすれば笑うし、その笑顔は偽りのものではない。それでも、血のこびりついた手であの細腕を掴み走ったあの日から、あいつは笑ってくれないんだ。気持ちはわかる。痛いほど。だけど、笑わないあいつをみてるのは痛かった。ヅラも坂本も、高杉でさえ気づかない。ほんの僅かな違いに俺は気づいてしまったわけだ。それはつまり、俺があいつをよく見てるからで、俺があいつのこと、

「おまえさぁ」
「なによ」
「…なんでもね」

なによそれ、と笑う。笑うな、いや、笑ってくれ。そうじゃない。そんな痛い笑顔じゃない。もっと、あの日みたいな、そんな風に、笑って。

「おまえさぁ」
「銀時、なんなの」
「大切なものとか、無いわけ」

知ってる。俺はきっと知ってる。知らないわけが無い。それでも俺はいまあいつが見せている笑顔が一瞬はりついたものに変わったことに気づかないフリをする。つくづく俺も、酷い男だ。ないよ、わるわけないじゃん。と自嘲気味に笑った笑顔なんて、消えてなくなればいい

どうしてそれでもを堪えるのか

不可視的感傷
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