俺は昔からしょうのないくらいにバカだった。周りからよく言われたし、それなりに自覚もしていた。だけどそのバカが頭が悪いとかそういう意味じゃなくて、不器用だという意味で使われていたという事は、あの人が死んで戦争がはじまった頃に知ったことだった。俺の周りにいるやつはバカに見えて実はそうじゃない奴等ばっかりだったから、つまるところ本物のバカは俺しかいなかったっていう訳だ。同じようにふざけて笑って酒呑んでやなこと全部忘れて寝る夜だって、あいつらの中にはずっと戦争のことがきっと、心のどこかにあったんだと、今更ながらに俺は思う。だったら本当にただのバカは俺だけじゃないか、と、俺の会社でバイトをしている眼鏡君に問うた所、「あんたのそういうところがバカなんだ」、とガキにしてはよく意味のわからない言葉を俺に向けた。だから眼鏡君よりも比較的親近感のある暴食娘に同じことを問うた所、「それだから銀ちゃんはみんなにバカ呼ばわりされるネ」、と眼鏡君と似たり寄ったりな事を言った。そして二人とも馬鹿力女のところに遊びにいきやがった。会社もとい自宅にひとりきりになった俺は、ふとあいつを思い出してしまう。俺よりもバカな女だったと、バカな俺にでも断言できるほどのバカだった。今ではもう、普通の女としてこのかぶき町で生きている訳だが、

"銀時は、バカだね。私にもわかるくらい"

あいつが俺の中で死んだのは、戦争の終幕直後だった。行き場をなくしたあいつは、包帯中二病についていく訳でもなく長髪野郎についていくわけでもなく、ただ立ち尽くしていた。俺はその背中を見て、「バカだな」と呟いた。「うるさい」と帰ってきたあいつの声は、聞いたことないくらい震えていて澄んでいて、脆かった。そこからあいつの記憶がロストされるのはもうあっというまで、あいつはあの人のことはおろか、俺の存在すらしらない。俺だって今のあいつのことなんかなんにも知らない。知りたいとも思わない。だってあいつはもう、あいつじゃあないんだから。俺の中でロストされたあいつの記憶は、こうして部屋のまどから切り取られた空を眺めたりする時についうっかり舞い戻ってくる。あんなやつ、俺は知らないのに、だ。

「でもね銀時、私、あなたのそういうところが好きなんだよ」

涙を流している俺に、勝手に俺の家に上がりこんできたバカな誰かが言った。

偽物なんかじゃない光

思い出にするにはあまりに眩すぎて