佳主馬でデレデレ

あたしには所謂幼馴染兼彼氏なんてものがいる。付き合ってるってことは学校の皆にもう知られているけど、別に恋人らしいことはしない。佳主馬のあの性格からしたらそうなるんだろうなあ、と予想はできていたし他のカップルみたいにベタつかれるのも好きじゃない。だからそれでいいと思っていたし、佳主馬もそれでいいんだと思ってた。友達にカップルじゃないみたいと言われることも多々あったけど、帰り道、恥ずかしがりやな佳主馬がさりげなく手を繋いできたりするだけであたしは十二分に幸せだ。急に冷たくなった風に首をすぼめると、繋がれた手にきゅっと力がこもる。あったかい。「…ねえ、」「ん?」明日の土曜、数学の宿題を消化するために佳主馬の家に行くことになった。佳主馬には信じられないほど数学ができる知り合いが居るらしくて、数学の成績はここ最近常に学年トップだ。そんな佳主馬に数学を教えてもらえるなら、そ即OKをして分かれ道に差し掛かり、あたしと佳主馬は別れた。今まで暖められていた手が急に寒い空気に触れて、異様に冷たく感じる。

「佳主馬ー」
「いらっしゃい」

ブーツを脱いで見慣れた佳主馬の家に足を踏み入れる。変わらない匂いに妙に安心した。佳主馬に促されるままに佳主馬の部屋に入って、いつもあたしがいる定位置に座った。ベットの脇にあった机が窓の向こうに移動してる。それに本棚の配置も変わっているようだった。「オレンジでいい?」「なにが?」「ジュース」一瞬ドアから顔を覗かせた佳主馬は返事も聞かずに再びドアの向こうに消えた。なんか佳主馬、そわそわしてる。暫くしてやっと部屋の中に入ってきた佳主馬はあたしの隣ではなく、テーブルの向かいっかわに座った。いつもと違ってほんのちょっと心臓が冷たくなった感じがしたけど、これから勉強することを考えればそれはあくまでも自然なことだった。「宿題って125ページの問3から7だよね?」「うん。5までやっといたたから写してもいいよ」「やった」割と新しいノートを開いて佳主馬が見せてくれるノートを教科書も一緒に見ながら急いで写す。その間佳主馬の視線がざくざくとあたしに刺さってきてなんだか落ち着かなかった。「ありがとう」「ん、じゃあ6からね」「うん」佳主馬のいつもはキーボードを叩いている指がシャーペンを握ってノートに向かっている。デジタルで簡単にできてしまうことをアナログで頭を使ってすることは、佳主馬にとってそれなりに意味のあることらしい。いつかに聞いた。さらさらと問題を解いていく佳主馬のノートをちらちら見ながらあたしも急いで宿題に取り掛かった。視界に振ってくる髪を適当に耳に引っ掛ける。佳主馬がこっちをちらりと見た。あたしも佳主馬を盗み見る。「…ねえ、」「ん?」「あんたさ、もしかして無意識でやってる?」佳主馬がずいっとこっちに近づいてきて、耳元に置いたままだったあたしの手を掴んだ。「…え?」「やっぱり」む、と一瞬顔を顰めた佳主馬にそのままのしかかられる。一瞬頭がパニックになったけどどうやら変なことをする気はないらしい。「学校ではあんまり近づけないから」小さくそう呟いた佳主馬に心臓のあたりがきゅっと締まるのを感じた。「…佳主馬、宿題は?」「僕もう終らしたから、あとで写せば」「うそ…」あの短時間に終わらせたなんて、にわかに信じられない。絶対今の状況を壊さないためのいい訳だ。だけど佳主馬が動く気配がないので、どうしようもない。「かーずーま」「…何」「なんでもない」「…なにそれ」あたしたぶん、自分が思ってるより佳主馬のことが好きだ。



きみとおなじ体感速度で生きたいんです


ほんとは呼吸だって止まりそう
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