今まで人を好きになったことのない僕は、自分でも信じられないような気持ちの中にただひとり、行き場を亡くした子どものように立ち尽くしていた。広い学校の中でその姿を見かけたり、声が耳に入ったりすれば意味のわからない緊張状態が訪れる。当初の僕はそのことに酷く混乱していて、彼女を傷つけたこともあったかもしれない。そうだったとしても彼女を傷つけた後の僕は、きっと彼女いように傷ついていたんだ。今はただどうしようもなく彼女が儚く愛おしく感じる。

「佳主馬、今日ももOMCで勝ったんだってね」

「まあ、ね」

下校時間、家が隣同士の僕達は必然的に一緒に帰ることになる。ふたりっきりの中で交わす言葉はもどかしくて、どこか痒い。でもふんわり笑う顔とか、たまに視界に入る彼女の細い腕や足が、僕の胸のあたりをぎゅっと締め付ける。そんな感情を誰かに訊くとすれば、それは自分よりも年上で、相談を持ちかければきっと真剣に考えてくれるだろうあの人に聞くのがきっと一番だ。おばあちゃんが死んだあの年から、あの人は毎年陣内の屋敷に来るようになった。僕らは今年も、あそこに集う。

「それって、恋だと思うんだ」

「こい?」

「うん。僕も、夏希先輩といるとそんな感じになるよ」

「…ふうん、」

まさか、ドラマやクラスの友達が騒いでいる恋が、こんなに苦くて軟らかいものだとは知らなかった。こんなやわい気持ちであんなに騒げるみんなの気持ちが、僕にはよく解らない。健二さんは笑って僕の頭を撫でた。僕はなんだか恥ずかしくなって健二さんの腕を軽く払った。

「まあ、絶対惚れさせてみせるけどね」


空中で溶けたのはうそぶき


本当の事を言うと彼女のあのやわらかい笑みをひとり占めしてしまうというのは僕が望んでいる事とは少し違っている気がして
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