どうしようもなく泣きたくなる日、なんてめんどうな日があたしにはたまにある。

だれかの、

まだまだ熱い9月の風は汗の滲んだ肌を爽快に滑ってゆく。なるべく直射日光にあたらないように日陰に腰をおろし最近発売された日焼け止めを腕に伸ばした。鞄から少し離れた場所にちらばったメイクポーチの中身。取りに行くには日の光りを浴びないといけない。それが酷く億劫で、あたしは日焼け止めを塗り終えた腕を屋上の汚れた床に放り出した。あたしが大の字になって寝そべって丁度良いくらいのサイズの日陰。その中に鞄とメイクポーチ、そのすこしはずれにアイラインとファンデーション。その向こう、つまりは日陰の外にリップと手鏡。鏡に日光が反射して非常にまぶしい。あたしはその鏡にタオルを投げつけた。手元にタオルがなくなり、鬱陶しい汗をぬぐうものが無くなる。仕方無に上体をあげると、清々しいほど無神経なチャイムの音が屋上にまで響いた。そのことにぱたりをやる気を奪われてしまったあたしは、ふたたびその場に腕を投げ出した。自分でも意味がわからない

目を閉じて、考えた。もうすぐ奴がここにやって来る。憎たらしい笑みを携えて。奴はいつでもさっきの終業のチャイムで授業を終え、次の始業のチャイムの頃に屋上に来る。眩しい日光にまっしろな白衣をはためかせ、まっしろな髪をなびかせながら。だからあたしはいつもあのチャイムでここから立ち去り、家に帰る訳だが、メイクポーチが散乱したという大事件のせいでここから離れられない。だから仕方無にここにいる。もうすぐにここにくる奴は憎たらしい笑みを携えて、きっと言うのだ。

「多分、寂しくなってやめちゃうと思うよ」

足音がきこえる

別れたのだ。もうついていけないと、もう疲れたと言ったから。だからもう奴とあたしにはなんの関わりもない。なのに奴は余裕の笑みを見せながらあたしに言ったのだ。だからあたしはもう奴に会わないと宣言して、それから教室に行ってないし、奴が来る時間には屋上を後にした。でも、きょうはそれが無理だから、ここにいる。

「やっぱり」

重苦しい音を立てて開いたドアにはやっぱり白い奴が居た。憎たらしい笑みを携えてやってきた奴は床に転がるあたしのリップを靴の先で転がした。

「もうどれくらいキスしてない?」

どうしようもなく、本当に自分では制御できないくらいどうしようもなく、でも自分からしてみれば本当に嫌なんだけど、だけど堪えきれない涙が、あふれ出そうになる、そんな信じられないほどめんどうな日がたまにある。

もうさみしくさせやしないからね

そんな日にはかならず眩しいほどの白があたしの目の前にやってくる。
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テーマ「人外ファンタジー」
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