残暑厳しいい夜、ひとりぐらしで特に彼氏とかいないし金銭的にも余裕のないあたしはなかなか眠れなくて外に出た。家にいてもお金なくてクーラーつけられないし、どうせなら涼しいところに行こうと河川敷の方へ向かう。コンビニとかは冷房が効きすぎて寒くなっちゃうんだよね。眼前に広がる草原にサンダルで来たことを後悔しながら足を草の中に踏み入れる。がさりと意外と派手な音がした。

「侵入者だ!」
「!?」

ほっぺになにかがかする。かすった場所が熱くて手を添えてみるとぬるり、と嫌な感触がした。月明かりの中右手を確認するとそこには真赤な血が。びっくりしてあたりを見回す。薄暗い河川敷には何も確認できない。ただホームレスの家らしきものがあるだけだ。恐くなってきて、へろへろとその場に座り込む。一体、なに?さっき聞えた「侵入者だ!」って声は幻聴なのか。でもだんだん痛んでくる頬のことを考えるとやっぱり気のせいとは思えない。考えれば考えるほど解らなくなってじわじわと涙が目元に溜まる。とうとう涙が零れてしまう、というところでがさりと音がした。こぼれた涙が傷口に染みて痛い。熊のように背の高いなにかがあたしに近づく。

「…む、お前は」
「し、シスター、さん」

このご時勢女が一人でホームレスのいる河川敷に行くのは、あまりよろしくないことだと思う。でもあたしがこの河川敷を選んだのは、ここにいる皆さんがみんな良いひとで(ひとじゃない方もいるけど)、安心できるからだ。茶髪でイケメンな星さんに誘われたのがきっかけで、あたしは数回この河川敷に来たことがあった。この人はシスターさんだ。高い身長と顔についた古傷が特徴的な、シスターというよりはブラザー寄りな(この言葉を産み出したリクさんにあたしは心から賛同する)この人は、見かけに反してとても優しい。

「怪我をさせてしまったな」
「あ、」
「手当てをしてやる。教会に来い」
「いや、大丈夫ですから」
「嘘を吐くな」
「、え」
「泣いてるじゃないか、辛かったんだろう」

シスターが言っているのは、どうやら怪我の事だけではないらしい。シスターが嘘を見抜けるのって、懺悔室の中だけじゃなかったの?と疑問を抱いていると「お前の顔を見ていればそれくらいわかる」と返された。本当にあたしは解りやすいらしい。バイト先でも浮いてるし、田舎からここに出てきたあたしには友達もいないあたしはひとりだった。自分でも気づかなかった心の傷を、先に数回しかあったことのない男の人に見抜かれてしまうなんて。複雑な心境だったけど、あたしはとりあえずついていくことにした。

ぼくのひとりぼっちを食べてくれるくま

(、どうした)(腰が、抜けて)(ああ、そうだったな)(うぇっちょ、シスターさん!?)(大声を出すな、皆がおきてしまう)(あたし、重いですよ…)(あの頃助けた戦友にくらべれば軽すぎる位だ)(はあ…)


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