俺は人を心身共に傷つけたことがたくさんあるし、近寄ってくる女はみんなやるだけやって後は捨てる。ガラ悪いし煙草も吸う。おまけに授業に出ないせいで成績は最悪ときたもんだ。そして更に、鬼兵隊という、一見暴力集団だと思われても仕方の無い組織に所属している。というよりそこの総督をしている俺は、当然のように教師やPTAの奴等に嫌われる。本当のことなどなにも知らないくせに、悪いところしか見ないで批判するだけ。俺だってあいつらは嫌いだ。最初からなにもかも嫌った方が何倍もマシだ。それでも鬼兵隊には似つかわしくないような女が、ずっと俺についてくる。何をいう訳でもなく、何を好くわけでも何を嫌うわけでもなく、ただ俺の後ろについてくる。気味の悪い女、第一印象はそれだった。顔も体つきも悪くない。手を出してやろうかとも思ったが、その女にはどうにもそういう感情を抱けなかった。その程度の女なんだと、もう俺についてくるなと言った。どうせおまえも俺のことなんか何にもわかっちゃいない。仲間というあやふやな集団の中に自分の居場所をなんとか見出しているだけなんだと。そしたら、あろうことか女は泣いた。ごめんなさい、と小さな声で呟くもんだから俺は笑ってしまった。この女の声なんてはじめて聞いたような気がする。俺が笑うと泣いて濡れた眼で困ったように笑うから、俺の心臓が呻いた。それが一番女らしい顔だった。俺はいつからかその女に興味を持つようになった。情報はひとつだけ、鬼兵隊に入っている事。俺が学校の屋上で昼寝をしていれば屋上の入り口付近でずっと座っているし、集会の時は集会所の隅で静かに俺を見ている。その目は総督の俺なんかじゃなく、高杉晋助という俺をずっと見ていた。一度、女に「こっちに来い」と呼びかけたことがある。女はまたそこはかとなく笑んで、屋上に転がっている俺の隣に転がった。その日は自分でも意味のわからない常態になって、それから女を近くに置く事はしなかった。これが、一番丁度いい距離だと思った。         そんな風に、馬鹿みたいな時間を駆け抜けたのはどのくらい前のことだろう。いまでも息を止めれば心臓の音が浮き彫りになって俺の体を揺さぶるし、つんと鼻が詰まることだってある。あの女は俺の中で死んだ。勝手に死んだんだ。遠くから触れないように俺を知るから、いつも困ったように柔く笑むから。言葉にはしない、遠まわしな愛をずっと俺に投げかけていたから。その愛は今、息を止めた俺の心臓から体中に運ばれている。

死んだ女は俺の一部になった


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