わたしは大の甘党である。その中でも特に好きなのがパフェ。ふわふわのクリームに甘いフルーツ、そして食べるだけでちょっとした贅沢をしてる気分になれるとってもおいしい甘味なのである。でもあんまり食べ過ぎると太っちゃうから一番多くでも週に1回。たまにしか食べられないというのもパフェを食べる楽しさを増やす一つのトッピングになるのだ。わたしって頭いい!最近は仕事がうまく行っていて、今の企画が成功するまでパフェ断ちするんだ。と決意して一ヶ月半。とうとうわたしがパフェを食べる日が来た!今日はいつもよりちょっと贅沢なかぶき町のファミレスの特大チョコレートパフェを食べるんだと決めていた。あそこのパフェ、てっぺんにプリンが乗ってるんだって!甘味友達の銀ちゃんに教えてもらった。ちなみに銀ちゃんっていうのはかぶき町でなんでもやさんをやっている人の名前。わたしに負けず劣らずの甘党で、糖尿予備軍なんだって。わたしはちゃんと節度をもって食べてるからそんなことにはならない。

「あ、ぎんちゃーん」
「おーどうしたァ?」

ファミレスに行く途中の道で、銀ちゃんに会った。銀ちゃんは相変らず銀色のふわふわな髪をゆるく風になびかせてダルそうに立っていた。ゆるゆるな口調が気を使わなくてもよくて、すき。銀ちゃんは甘いものと同じくらい大切な存在だ。いつでも相談にのってくれるし、やさしいし、おもしろいし。銀ちゃんに「どうしたの?」って聞いたら「一緒にパフェ食おうと思って」と言って、ふにゃりと笑う。どきん、銀ちゃんって、なんでこんなにかっこいいんだろう。なんでこんなにかっこいいのに彼女いないんだろう。本当に不思議。

「銀さああぁぁぁああん!」
「うわクセッ!こっちくんな納豆女ァ!!」

ほのぼのとした雰囲気を楽しんでいたら、急に銀ちゃんがナイスバデイなお姉さんに抱きつかれた。そして銀ちゃんはわたしが見たこともないくらい勢い良く喋っている。あれ、いつものゆるふわな銀ちゃんは?二人のやり取りを見ているうちに、もしかしたらわたしは銀ちゃんについて何も知らないじゃないかって思った。なんでもやさんをしていて、甘いものが好きな銀ちゃん。でも、それ以外のことはよく知らない。銀ちゃんが話そうとしなかった。だからあたしは銀ちゃんの人間関係は知らないし、いま銀ちゃんとじゃれている納豆を持った女の人が銀ちゃんの何なのかもしらない。彼女さんかな。なんか銀ちゃんと仲よさそうだし、彼女さんが一方的に好きって感じにも見えるけど、それは銀ちゃんの照れ隠しかもしれない。ああ、あたしって銀ちゃんについてほんとうに何もしらない。

「じゃ、じゃああたし、行くね」
「は?ちょ、待てよ」
「ばいばい」

朝のわくわくした気持ちはどこかへ消えてしまった。いまはパフェとかどうでもいい、家に帰って、ちょっとだけ泣きたい気分。だからあたしはくるりと方向転換して歩き出す。銀ちゃんは止めるけど、追いかけては来ない。ばいばい、銀ちゃん。あたしもうきっとかぶき町には来れないな、甘いものも、銀ちゃんを思い出しそうで食べれなくなりそう。告白もせずに振られちゃうなんて、かっこわるい。とうとう本格的に涙が出そうになって、上を向いて鼻をすすった。銀ちゃんに気づかれないように早足で銀ちゃんから遠ざかる。

「待てって」
「…銀ちゃん」

腕を掴まれる。ああ、こんなドラマみたことあるような気がする。そして銀ちゃんはそれっきり何も言わなくて、あたしはずるずる引きずられてファミレスに。こんな涙でぐちゃぐちゃの顔、見られたくない。銀ちゃんは特大パフェを二つ注文した。

「銀ちゃん、お金持ってないくせに」
「いや、これは奢るからよ」
「…わたし、」

たかられてたのかもしれない。ふいにそう思った。そっか、そうか。もう涙はとまんなくて、顔を見られたくなくて俯いた。お気に入りのスカートにシミができる。かばんの中からハンカチを取り出して涙をぬぐう。でもすぐにぽたぽたとこぼれだす。するとテーブルがこつんと鳴った。反射的に前を向くと、特大パフェと銀ちゃんの顔。てっぺんのプリンがぷるぷると震えている。銀ちゃんはパフェにスプーンを伸ばして、クリームを掬う。銀ちゃんが食べると思ったそれは、あたしに向けられて、でも口を開かないでいたら無理やりスプーンをつっこまれた。あまい味が口に広がる。「あいつはな、かんでもねぇんだよ」「ふひょ」嘘、と言いたかった。ゆるゆるにゆるみまくった目では銀ちゃんの表情はうかがえない。でも銀ちゃんの声が優しかった。スプーンが抜かれて、またクリームを掬う。それを銀ちゃんが食べた。間接キス、だよね。

「俺はお前が好きだよ」

生クリーム鈍痛



そしてまたあたしの口につっこまれたクリームが甘くて、甘すぎて、どうしようもないくらいにくらくらする



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