嵐のような一日だった。早朝におばあちゃんが死んで、生活の大半を占めるOZのサービスに問題が起こって、それが侘助おじさんのせいで、佳主馬が負けて、健二さんが闘って、あたしはただ見てることしかできなかった一日。後悔してもしきれないくらい。どうしてあの時、あたしの体は思うように動かなかったのだろう。あたしがあの時佳主馬の傍にいられたら、あの時翔太にいの行動を止められたら、あたしがアバターを取られてなかったら、佳主馬はもっと冷静でいられたかもしれないのに。あたしがラブマシーンにアバターを取られたから、佳主馬や健二くんも迂闊にラブマシーンに攻撃できなくて、だってあたしのアバターのデータが損傷したりしたら大変だって。あたしのせいだ。あたしがあの時、もっと動けたら。

「ごめん」

ぽろりと零れた言葉と共に頬を伝う涙。悔しい、あたしは陣内家の家族なのに、なんの役にも立てなかった。沈みかけた太陽が完全に見えなくなったら、あたしは新幹線に乗って帰らないといけない。夕日がよく見える縁側で、あたしの頬から落ちる涙が夕日に照らされてぽたぽたと零れる。ぽたぽた、夏希ねえにもらったワンピースにしょっぱいシミができる。前を見ているから、佳主馬の顔が見えない。視界がかずんで、佳主馬の表情が見えない。ああ、また泣くから、迷惑になってしまう。佳主馬がこっちを見ているのだけが解る。表情が見えなくてよかった。こわい

「ごめん」

涙を拭おうとすると、手を取られた。細くて冷たい手。この手がキーボードを叩いて世界が、陣内家が救われた。細い手。手を取られてしまって、まただらしなく涙はぽろぽろと零れていく。ワンピースに水溜りができてしまいそう。

「守れなかった」

こわい、表情が見えないのが、こわい。佳主馬の声が震えている。こわい、佳主馬の表情が見えなくて、よかった。握られた手が、佳主馬の冷たい手をあたためていく。

「ごめん」

ゆっくりと夕日が隠れていく。きらきらと輝いた涙はぽろぽろと輝きを落としながらあたしのワンピースにみずたまりをつくっていく。深いオレンジ色と藍色が混ざった複雑な空の色。鼓膜を優しく震わせる変声期の来ていない声。夕日が沈んだら、あたしはここから居なくなる。あたしの夏が終る。こんな、ぐちゃぐちゃな形のまま。言葉は必要じゃなかった。掴まれた手と反対の手で乱暴に涙を拭う。見えてしまった佳主馬の表情。やさしい顔。

正しい同情の仕方

あたしのアバターが取られてなかったら途中で投げ出してた、と優しすぎる佳主馬は笑った。あたしの涙はまただらしなく零れ始める。夕日が落ちて暗くなった世界ではもう涙は輝かない。泣いていてはいけないから。今のこの感情が、思い出になって、いつか忘れてしまうなんて。今はそれだけがとてつもなくこわい。あたしと佳主馬は手を繋いだまま、電気のついた居間に向かう。最後のご飯を笑って食べるために。
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