ラスでできたその指は


 骨ばって肉の無い指がわたしに触れる。やわく、あわく、消えそうに触れる。どんなに激しいことをしても、いつだってその指は弱い。

 わたしは人を殺めたことが一度だけある。その時の指の振るえやごくりと唾を飲み込む自分ののどの音、わたしを叱りわたしの為に泣いたその瞳は、いつになっても忘れることなく心奥底にひっそりひんやりと漂っている。

 それがわたしの中に存在する限りわたしはこの船から出ないし、きっと出させてもらえない。共に暮らすこの狭くも広くもある部屋で朝日を感じ、惚けた月を眺める。そして日に1回、ひんやりしたそれに触れてみる。触れた指がじくじくと痛む。

 あの時の目は、今のあたしの指の痛みをしっている。わたしはそれに、やわく、あわく、消えそうに触れるように心がける。強く握ってしまいたいけど、そうしたらわたしの指が溶けてしまう。

 その指が一度だけわたしの肩に食い込んだとき、その目からは塩辛い汁が出ていた。血でまっかになったわたしの手を、その指は優しく拭った。

おまえまで、こんなくるしいおもいをしないでいい

 そう、人を殺めるのはくるしいことだ。世界の軸を失ったわたしは軸を奪った人間をひとり、殺めた。憎しみなんてどこかへ身を潜め、やってきたのは恐怖。決して強くなど触れられない。わたしは弱い。勿論、その指も。

 きっと、わたしの気持ちを知っている。その指はいつだって弱くわたしに触れるから、きっと強くなんかない。指の弱さはひとの痛みに触れることができる。弱いから、その指はきつく刀を握りひとともつかぬ生物たちを斬り刻む。そして弱く、その核心に触れるのだ。

 わたしたちはきっと一生そうして生きていく

ガラスでできたその指は
いつだってやさしく傷つける


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