夏休み、あたしは毎年のように陣内家にお世話になっていた。いつもと変わらない夏。都会で過ごすよりもうんと静かでうんと蝉の煩い夏。たくさんの家族とたくさんの思い出を作る、とても暑い夏。あたしは毎年、誰よりも早くこの陣内家に来る。みんなが笑顔でこの家に来るのを見たいからだ。でも今年は佳主馬の方が早く来ていた。あたしが万理子おばさんにあいさつしたら奥のほうから佳主馬がやって来て、あたしの手を掴んでずんずんと納戸へ連れてきた。万理子おばさんはクスクスと笑っていたけど、今年の佳主馬は、なにか違う。「…佳主馬?」「…ねえ、」薄暗い納戸で佳主馬の表情が見えない。不安になって顔を覗き込もうとするとそのまま抱きしめられてしまった。変な体制のまま抱きしめられたせいで、息がし辛い。暑い夏に備えた薄い服越しに佳主馬の体温が伝わる。お互いの心臓がどくどくと煩かった。「…かず、ま?」「そういう服、止めて欲しいんだけど」「え?」どういう意味だろう。まさか似合ってなかったとか。どうしよう。あんまり会えないからせめて会えるときは可愛くしようと思ってたのに…あたしがショックを受けテンションも急降下している中、佳主馬は恥ずかしそうに口を開いた。耳元に息が掛かって恥ずかしい。「そんな可愛いカッコ、健二さんとかに見られたくないから」。言われた直後にぎゅうっと更にきつく抱きしめられて佳主馬の顔が見えない。でも、多分不貞腐れたような顔をしているんだろう。そっか、そうだよね。そういう風に考えてくれてるなら、嬉しいよ。そっと佳主馬の背中に腕を回す。「あ、そ、そういえば佳主馬、妹ちゃんと聖美さんは?」背中に腕を回したことに今更ながら恥ずかしくなって、話題を変えようとふと頭に思い浮かんだ事を聞いてみたら頭を上げた佳主馬は、なぜかムッとした表情でこっちを見た。そしてそのまま佳主馬の足にあたしの足を絡めとられてバランスを崩し、派手にその場に転んでしまった。体は痛かったけど、頭は佳主馬の手で守られていた。そして頭もそっと床に置かれて、佳主馬を見上げると佳主馬は急に風情的な顔つきになる。よく意味がわからなくて、ゆっくり状況を理解しようと頭を働かせると、あたしは佳主馬に押し倒された格好になっていて、これからきっと佳主馬にあんなことやそんなことをさせられてしまうのだろうという結論に至った。急に恥ずかしさがこみ上げてくる。「ちょ、なに…急にっ」「今は僕のことだけ考えてて」「っ、」べろり、と耳の裏を舐められる。荒くなった息で佳主馬の名前を呼ぶと、嬉しそうに笑った。(あ、これはもう逃げられないな。どうしよう床固いから絶対腰痛くなるし、代えの下着も鞄の中だ)そのまま雰囲気に飲まれ、行為に及ぼうとした時「おーい!」と健二さんの声が。「佳主馬達どこー?」夏希ちゃんの声もする。「僕の予想だと、納戸に居ると思う」「やっぱり?あの二人ラブラブだよねー」そんな会話が聞えてきてこの状況とあわさり、更に恥ずかしくなる。「か、かずま…」佳主馬のタンクトップを掴んで、どくように促すけど、佳主馬は気にていないようであたしの顔中にキスをし始めた。「な、なつきちゃん、たち、はあ、来ちゃうっ、よ…?」顔中にキスを降らせながら、佳主馬の両手がもぞもぞと服の中を動き出す。健二さんと夏希ちゃんの足音は確実に納戸に近づいて来ていた。「ほら…かずまっ」「恋人なんだから僕を優先するよね?」「うぇ…っ!?」よくわかんないけど、どうやらどく気はないらしい。低体温の手で素肌を触られて思わず上ずった声が出て、二人に聞えてないだろうかと恥ずかしさが増す。歯を噛締めて声を抑えて小さく暴れてみても、簡単に身動きできなくなってしまう。布の擦れる音と自分の吐く息が信じられないくらい恥ずかしい。「佳主馬ー?」「開けるよ?」ふたりの足音が止まり、扉からコンコン、というノックの音が聞えた。ついに二人が来てしまった。恥ずかしくてどうしようもなくてきゅっと目を瞑ると、佳主馬のキスが止まった。「…?」「ちょっと僕今忙しいから、後にして」その後扉ごしにいくつか言葉を投げ合って、健二さんと夏希ちゃんの足音は離れていった。そのことにほっと溜息を吐くと、今度は首筋に唇が降ってきた。「これで大丈夫でしょ?」「んっ、あ…」さっきは雰囲気に流されそうになったけど、やっぱりここでするのは嫌だ。だって床は固いし、着替えとかもぜんぜん準備できてないし、せめてあたしの鞄をここに持って来たい。「か、かず…」「ん?」そのことを息絶え絶えに佳主馬に伝えると、意外と簡単に佳主馬が離れた。はだけた服装と乱れた髪を整えて、このまま逃げてしまおうか、後が恐いけど。なんてことを考えていたら佳主馬が立ち上がった。「?」「行くんでしょ?」「あ、うん」どうやら佳主馬も付いてくるらしい。下着とかを見られるのは恥ずかしいけど、来ないでなんて行ったら大変なことになるのは目に見えてるので、火照った頬を手で押さえ冷ましながら佳主馬に手を引かれて立ち上がる。もう既にあつさと恥ずかしさで体力を奪われたあたしはフラフラと佳主馬に手を繋がれたまま長い廊下を歩いていく。すると、ふと万理子おばさんと話す健二君が見えた。声をかけようにも今の佳主馬の様子を見ると、全然声なんてかけられなかった。タンタンと木製の廊下を歩き、玄関から丁度裏側あたりにあるあたしの部屋へ。きっと万理子おばさんが持って来てくれたのだろう、あたしの鞄はちゃんといつもあたしの部屋に置いてあった。その中から代えの下着やらを漁る。ついでにケータイも探していると、充電器がないことに気づいた。「あ、」「ん?」「充電器置いてきちゃった…」「後で買いに行く?」「うん…」充電切れそうだから出来れば今から買いに行こう、とは言えず布団を敷き始める佳主馬をぼんやりと眺めていたら(あ、ここでする気なんだ)、健二さんがあたしの部屋の前を通りかかった。「あ、」「健二さん」「…さっき聞えたんだけど、充電器ないの?」「うん」「じゃあ、今から僕、万理子さんのおつかいで買い物行くんだけど、一緒に来る?」「いいんですか?」「もちろん!…だけど、」「?」健二さんは苦笑いしながらあたしの後ろを指差す。それにつられるように後ろを振り返ると、機嫌悪そうに胡坐をかいている佳主馬の姿が「あ」「…」「……」「いいけど、」「へ?」「いいの?」「僕も一緒に行くから」「えっ」なんとお許しが出るとは、驚きつつも後の事を考えると気分が重くなった。絶対に今するよりあとでしたほうが疲れる。そしていろんなことをさせられる。「そ、それじゃあ行こうか」という健二さんの中々気が利いた言葉にあたしと佳主馬は健二さんに続いて部屋を出た(多分健二さんはあたしと佳主馬がナニしようとしてたか薄々感づいてる。恥ずかしい!)。バスに乗ってコンビニなどがある商店街が軒を連ねる通りに来ると、「じゃあ僕は言われたもの買って来るから、二人は充電器買って来て」「はーい」「行こう、」「うん」今日はよく佳主馬に手を引かれる気がする。あたしは佳主馬の後を追ってコンビニに入った。ひんやりとした空気が心地良い。しばらくその涼しさに和んでいると、佳主馬がぐんと腕を引いた。がくんと首が揺れて慌てて佳主馬を追いかける「機種、ドコモだっけ」「うん」さっと買い物を済ませ、健二さんから連絡があるまでコンビニで涼むことにした。あたしが雑誌を読んでいたら、ほっぺに急に冷たい何かが触れた。「ひゃっ!?」「…食べる?」「佳主馬…それ、アイス?」「うん」ほっぺにあてられたのはぎゅぎゅっとだった。佳主馬が買ってくれたみたいだ。ビニール袋に入ったままのぎゅぎゅっとをとりだすと、佳主馬がぎゅぎゅっとを自分のほっぺに当てた。一体何をするつもりなんだろうと、佳主馬を見ていると、「ぎゅぎゅっとしちゃう?」なんだこれは。あたしは「…しよう!」と叫び、佳主馬の手を両手でぎゅっと握る。すると佳主馬は、可笑しそうに笑った。流石に店内で食べるわけには行かないので外に出る。すると外はむわっと暑かった。じわりと汗が滲む。でもその中であたしの頭のなかはぎゅぎゅっとと佳主馬でいっぱいだったまさか佳主馬がぎゅぎゅっとしちゃう?って言うなんて…なんて可愛い。さっきまでのエロエロ魔人&不機嫌佳主馬からは想像もできないようなかわいらしい光景にあたしは半分に折られたぎゅぎゅっとを美味しく頂いた。「健二さん遅いね」「…そうだね」「メールしてみよっか?」「僕がする」「え、」言うや否や佳主馬はポケットからケータイを取り出してメールを打ち始めた。「…」「僕以外の男にメールとか、しないでよね」「え?」「好きなら嫉妬するに決まってる」そういう佳主馬の顔は、アイスを食べて涼んだにも関わらず赤い。そのことに微笑む。本当に佳主馬は、やきもちやきなんだなあ…「お父さんは許してね」「…特別」「ありがと」そう言っていい雰囲気になって来たところで、直そこの角から大量の袋を抱えた健二さんがやって来た。ゼエゼエと息が荒い。佳主馬、メールで健二さんに何言ったんだ。「遅くなっちゃってゴメン」「チッ…」((し、舌打ち!?))「何してんの、早くいくよ」「「はっはいィ!!」」慌てて佳主馬を追いかける頃には、いつものクール不機嫌佳主馬に戻っていた。あっという間だったなあ…。そしてまたバスに揺られて陣内家に戻る。戻ると既に独身の面々は付いていた。夏希ちゃんは侘助さんにつきっきりだ「…健二さん、ドンマイ」「ドンマイ」ぽん、と健二さんの背中を叩くと、佳主馬にその手を掴まれてそのままズルズルとあたしの部屋のほうへ連れて行かれる。ま、まさか…!「…ドンマイ。」若干青ざめた健二さんがあたしのことを見ながら呟いた。……お互い頑張ろう。さっきも恥ずかしい思いで通った廊下を再び逆方向に歩いていくと、万作おじさんとすれ違ったおじさんは何も言ってこそしないものの、ニヤニヤとした笑みであたしと佳主馬を見ている。はっ恥ずかしい…!!その様子をみた佳主馬が、口を開いた。「僕達、これから愛し合うからガキ共来ても来ないように言っといてね」「!!」「ほォ…やっぱりねぇ」あたしはそれから部屋についても顔をあげることができなかった。「……」「何恥ずかしがってんの」「だっ…だって、」「本当のことじゃん」「でも…」促されるまま布団に座る。そのことで更に恥ずかしくなる。俯いたまま宥めるように佳主馬に抱きしめられてぽんぽんと背中を叩かれる。「うー」「解ったわかった。」なにを解ったのか解らないけど、とりあえずちょっと緊張が解けた。佳主馬に両手で顔を挟まれ、上を向かされる。そのまま佳主馬の唇があたしのそれに触れて、真白な布団に体が沈んだ。「ねえ」「…ん?」「僕以外見ないって誓ってくれる?」そう言ってくれる佳主馬が凄く好きだ。「うん」「正月に会った時、凄く可愛くなってて、盗られちゃうんじゃないかって思って」「うん」「だから、うざったいとか思われるかもしれないけど」「まさか、そんなこと思わないよ」「本当?」「ほんとだよ」おでことおでこを擦り合わせる。ああ、あたし、佳主馬がどんなに束縛彼氏になったりしても、ずっと佳主馬のこと好きなんだろうなあ…。いつもと変わらない夏。都会で過ごすよりもうんと静かでうんと蝉の煩い夏。たくさんの家族とたくさんの思い出を作る、とても暑い夏。あたしは毎年、誰よりも早くこの陣内家に来る。みんなが笑顔でこの家に来るのを見たいからだ。でも来年からは佳主馬と一緒に来て、佳主馬と一緒にここに来るみんなの笑顔をみるのも悪くない。「あたし意外見ないって誓ってくれる?」「当然」あたしと佳主馬の夏が始まろうとしている































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