軽い気持ちでそんなことを言われるのが嫌だった。凄くいやだった。好きな人を嫌いになりそうなくらい。凄いと思った。ずっと尊敬していた。だから近づいた。尊敬する人に近づきたかった。腕が痛い。
「おい…」
「嫌いじゃっないよ」
なんでもできる凄い人の人間性は最低だった。でもあたしは最低なだけじゃないって知っていた。いつ知ったのかもどういう経路で知ったのかも解らない。気が付いたら気づいてた。あの人が見せない優しさに。不器用で人を傷つけてばっかりの優しさに。ただのあたしのかいかぶりかもしれない。もしかしたらあの人は本当に酷い人であたしの気持ちをわかった上でこんな事を言っているのかもしれない。
「じゃあ、なんで泣いてんだよ」
俯いていた顔を大きな手で包まれて、上を向かされる。そして親指で涙を払われた。酷く覚束ない仕草で。なんでも出来るはずなのに。こんなことで緊張してたら、あなたらしくないよ。あたしにはどうしてもこの人が酷い人には思えない。
「そんなにケータイとられんのが嫌だったんか」
「……」
「じゃあ、」
なんで。言葉が止まった。本当にどうして、嫌じゃない嫌いじゃない。でも悲しい苦しい。なんでもできるあなたには、もっとなんでもできる人がお似合いだ。あたしの出る幕なんてない。
「俺はお前が嫌いだよ。他のやつらは馬鹿みたいに行動パターンが一緒でなんだって理解できるけど、お前だけは何考えても理解できない。今だっておまえが何考えてるのかわからないよ。」
「……っく、」
「俺、お前の涙もきらいだ。訳わかんないのに俺が責められてる気がするから。お前が何考えてんのかわかんないから余計に恐い。解らないから俺にはこうやって涙をはらってやることしかできないから」
何を言われているのかわからない。嫌い。そういう声が震えている
「俺は、お前を知りたいよ」
「…っふ…」
「俺は、お前の事きらいだけど、お前のこと、」
覚束ない手とは裏腹にあたしの瞼を舐める舌はまるでそこだけ別の生き物のようにうねうねとあたしの瞼をなぞる。考えてることがなんとなく理解できてきて、たまらなく恐い。あたしが憧れて尊敬して頑張って近づいて傷つけられた、本当に酷いひとはこんなに弱くて何も知らなくて、あたしが憧れた才能だけで今まで生きてきたらしい。まるで子どもだ。手に抱えきれない才をもてあまして、悪戯に周りを傷つけてきたんだ。そのくせ、打たれ弱いなんて
「好きだよ」