「健二さんってすっごく羨ましい。だって」

佳主馬くんと同い年くらいの少女が僕の足の間から身を乗り出すようにして僕を見つめ、こう呟いた。
彼女は僕の人生で一番勇気を使った日の夜に陣内家に来た少女だ。夏希先輩に「あの子も陣内家の人ですか?」と聞いたところ「将来そうなる子だよ」となんとも解読困難な回答が帰ってきた。おばあちゃんが亡くなったと聞いておお泣きしながら陣内家に来た少女は佳主馬君に腕を引かれて、ずっとあの暗いパソコンのある部屋に居た。それはもう去年の事で、今年は僕も家族としてこの陣内家に招待された。僕が付く頃にはもう少女は居て、佳主馬君はまだ来てないみたいだった。「…こんにちは」と恥ずかしそうに挨拶された時にはああなんとなく夏希先輩に似ているな。と感じたものだ。一時間もぞもぞとなれない会話をした後やっと少し打ち解けた僕達はとうとう佳主馬君の話題にたどり着いた。僕もこの二人の関係は気になる。そして冒頭に戻る。

「羨ましいって、どうして?」
「だってね、佳主馬があんなにすぐ人に懐くのって珍しいんだよ」

そして少女がいかに佳主馬君が人見知りかを説明する言葉を聞いているうちにふと感じた。この子は佳主馬君が好きなじゃないだろうか。こういうのに疎い僕でも多分これは当たってると思う。佳主馬君の話題になってから笑うことが多くなった。

「あたしが佳主馬と仲良くなるのに、2年くらいかかったんだあ」
「二年も?」
「まあ、お正月とかお盆にしか会えないしね」

そう言ってえへへと少し淋しそうに笑う少女は佳主馬君とは対象的に明るくて活発で良く喋る子だった。それにしても2年は長い。根気がある子なんだな。なんだか余計陣内家の人たちみたいだ。一時間の談話でわかったこの子のことは、佳主馬君と同い年で、彼女の一族は大昔陣内家に仕えていたそうだ。そして小学1年生の時に初めて佳主馬君と会って、二年かけて仲良くなったんだとか。彼女は普段新潟に住んでいるらしい。近所にあの時お世話になった漁船が止まっていて、万助おじさんとも仲がいいらしい。少女はいつも一人で陣内家に来るそうだ。なにせ家がとても忙しいらしい、中学生が頑張ってるんだなあ、すごいな

「だから、健二さんがとっても羨ましいの」
「そうだったんだ…」

相変らず僕の足の間から上目遣いに僕を見つめる少女は凄く可愛い。あ、いや…別にそういう意味ではなくて、僕は夏希先輩が好きだから…って!何いっちゃってんの僕!

「あたし、佳主馬の事が好き」

そういう少女は力強い眼差しで僕を見た。でも少し不安そうに僕のシャツを握る。ああ妹みたいで可愛いなあ。妹がいたらこんな感じだろうか。そういえば佳主馬君にも妹ができたんだよな。OZで見たときはとっても可愛い赤ちゃんだった。

「でも、きっと佳主馬は健二さんのことのほうが好きだよ」
「へっ!?…そ、そんなコトはないと思うけど…」

至極真面目にそう呟く少女に僕はふきだしてしまった。だって僕と佳主馬君は男どうしだ。仮にだとしても佳主馬君にそんな性癖があるとは思えない。むしろ佳主馬君はこの少女のことを凄く大切にしていると思う。だって去年僕がこの子を見かけたときはいつも佳主馬君と一緒にいた。お昼は佳主馬君の部屋で寝てるか読書するかケータイでOZに繋ぐかしてたし、食事の時間も佳主馬君の隣だったし(二人の距離は妙に近かった)。だからこの少女がしてる不安は杞憂に過ぎない訳だ。

「あ…健二さん…」
「あ、佳主馬君」
「かずま!」

玄関の方から佳主馬君と幼い赤ちゃんを抱いた聖美さんが現れた。佳主馬君は僕と少女を一瞥した後、暫く呆気にとられていたかと思うと直に不機嫌そうな顔つきに変わった。少女はそれに気づく素振りも見せず佳主馬君に向かって手を振っている。相変らず僕の足の間で。ちょっとそれはやばいんじゃないかな…と思いつつ上に乗られるようになっている僕はこの状況を打破する事は出来ない。聖美さんと目が合うと困ったように笑った。どうやら聖美さんもこの二人の関係に気づいてるようだ。そうだよな。ずっとこんな調子だったら誰だって解る。もしかしたら去年の僕達もそうだったのかもしれないと思うと、自然と頬に熱が集まった。

「…健二さん、なにしてんの」
「いや、これは…」
「ま、いいや。行くよ」
「はーい。じゃあ後でね、健二くん!」

彼女の満面の笑みに、佳主馬君はまた顔を顰めた。どうやら僕のことを君付けで呼んだことが気に食わないらしい。佳主馬君と少女は手を繋いだまま部屋の奥へ歩いていった。二人して笑顔で談笑している声が廊下を通して聞える。佳住馬君が笑うなんて珍しい。お互い大変だ。と二人が去った後の空間で聖美さんと呟いた。

貴方だけに向ける特別な笑顔

お互いがお互いに向ける笑顔が周りに向ける笑顔となにか決定的に違うことに、多分お互い気づいてない。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -