自分でも解るくらい香水臭かった。エロくて男くさい臭い。結局あたしは銀時がだいぶ昔に使っていた記憶があるというフェロモンばっちりの香水をかけてもらった。銀時は優しい目であたしを捉えて「がんばれよ」って言ってくれた。あたしは銀時に見せてもらった夢をこんどは晋助に見せてもらいたいと思った。だから船に戻ってきた。あたしの臭いを嗅いだらしい晋助はあたしに向かって「臭ぇ」と一言呟いた。

「わかれよう」
「…は?」

晋助が信じられないという顔をした。

そうだったね、晋助は昔から自分のものを取られるのが嫌いだった。でもあたしはものじゃないんだよ。生きた人間。だから自分の感情で自ら誰かに取られたりだってできちゃうんだよ。晋助、そんなことぜんぜん知らなかったでしょ。
だって今まであたしは自分の感情で晋助の傍にいたんだから。まるでそれが当り前のように。でもそんなのあたりまえなんかじゃない。あたりまえっていうのは、いつここから離れて行ってしまうのかという耐え難い不安と目を瞑った先にある自分だけの我侭な夢だけだ。あたしは今まで晋助に夢を見せてきたよね。他人に与えられる夢があたりまえなんだって錯覚するほどに、ずっと晋助に夢を見せてきた。わかる?晋助、人は夢を見ることだけじゃなくて夢を見させることもできるんだよ。あたしを取られたくないなら、あたしにとびきり甘い夢を見させて。そうすれば酷い現実なんて甘い夢に変わるのだから。まるで現実のような、とびきり甘い夢をちょうだい。そしていつかお互いに夢を見せ合って、同じ夢を共有しようよ。ね、それが本当に幸せってものなんじゃないの?

きっとあなたのくちづけはあのときとすんぶんかわらずにがいのでしょう


「…さっきのはうそ」
「ああ」


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