あたしには彼氏がいる。とっても優しくて、かっこいい自慢の彼氏。彼は真選組の副長という幕府にとって結構重要な役職についていて、その役職に見合ったしっかりものだ。ちなみにあたしは真選組一番隊平隊士。でもまあ、紅一点ということで真選組のイメージアップやらなんやらに重宝されてたりする。それはあたしの誇りでもあり、同時にコンプレックスでもあった。女だから、女の癖に、女なのに。こういうことを言われるのが、あたしは一番嫌いだったし、傷つく言葉でもあった。

「ねーえ?トシ」
「あ?なんだよ」

顔は書類に向いていてもちゃんと返事をしてくれる。やっぱり持つべきはいい彼氏だよなあ。真選組なんて男ばっかりのところでトシはちゃんとあたしを気遣ってくれるし、ほかの隊士みたいにデリカシーのない発言とかはしない。やっぱりそれも女だからってことになってしまうのかもしれないけど、これはちょっと嬉しかった。あたしが一番嫌なのは、仕事のことであたしが女だからって危険度の高い仕事に回れてなかったり、気を使われたりする事なんだ。

「なんで今日の切り込み、あたしは行けないの?」

トシの部屋で寝転がって、なんとも思ってないように装ってさり気なく聞いてみた。その質問にトシは肩をピクリと揺らす。やっぱり。ちょっとだけ傷ついた、かも。

「そ、それは…だな、」
「ねえ、あたしも行きたい。」

トシは書類をまとめて溜息をついた。そして持った書類の束を横に寄せて窓のそとに視線を向けた。そしてごそごそと隊服のポケットの中を漁って、煙草を吸い始めた。ゆっくりとトシから吐き出される白い煙はなんだかえろい。

「ダメだ」
「なんで?あたしが女だから?」

しろい煙と一緒に吐き出された言葉に、あたしはこんどこそ苛立ちを隠しきれなかった。自然と口調に棘が見え始め、早口でまくしたてるような声が出る。子どもみたいで嫌だ。こんな余裕のない姿を晒してしまうのは。でも、そうしていないと、泣きそうだった。いつかあたしは真選組皆のお荷物になってしまうかもしれない。「女」って理由で攘夷浪士からナメられてるのは知ってる。いつかそれが酷くなって、真選組に迷惑をかけてしまうかもしれない。そうなる前に、あたしは一人前の隊士なんだって、証明しないと。その為には、危険度の高い仕事にも出してもらわないと。「せめて理由を…聞かせてよ」

これで「てめえは女だろうが」とか言われたら、真選組やめよう。お荷物だけは嫌だ。なんとしても絶対に嫌だ。するとトシはごほんと一つ、咳払いをした。

「好きな女に血流させてェ男がどこにいんだよ…」
「え…」

トシの耳が赤い。タコみたいにまっ赤だ。…え? え、嘘。あたしが軽く混乱しているうちにトシはぶっきらぼうにまだまだ長い煙草の火を消して、逃げるように副長室を去っていった。残されたあたしはひとり、徐々に赤くなっていく頬を抓ってみた。ああ、痛い。ヘタレなトシがこんなこと言ってくれるなんて。いつのまにかあたしのもやもやはどこかにふきとんでいて、トシに心配されるのもいいかも…なんて思い始める自分がいた。

ああ、そうだ。言い忘れてましたがあたしの彼氏、優しいしかっこいいし真選組の副長なんて幕府にとってけっこう重要な役職についてるししっかりものだけど、ヘタレなんです。そんな所も全部全部ふくめてあたしはトシが大好きだ。でも今この瞬間は、トシへの気持ちが大好きから愛してるに変わった瞬間でもあるだろう。


その言葉だけでどれだけ救われたか、あなたは覚えていない



…とまあ、今までの話は昔話で。いまあたしに彼氏はいない。その代わりに優しいしかっこいいし真選組の副長なんて幕府にとってけっこう重要な役職についてるししっかりものだけど、ヘタレな旦那さんがいる。今あたしはもう真選組の隊士ではなく、一人の息子と真選組で副長専属女中みたいなことをして暮らしている。

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