今日はたまたまお兄ちゃんよりも早く起きた。だから簡単だけどあたしが二人分の朝ごはんを作ってお弁当をつめた。たったそれだけのことなのに、あたしは酷く上機嫌だ。制服に着替え、学校の支度をしてお兄ちゃんが起きてくるのを待つ。いつもあたしが起きる時間の25分前、お兄ちゃんはまだ起きてこない。暇をもてあましたあたしは、いつもはお兄ちゃんが結ってくれる髪を自分で結ってみることにした。
「うーん…」
しかしこれが中々巧く行かない。長く伸びたあたしの髪はなんか邪魔で括りにくいし、できたと思ってもふたつしばりの均衡ができていない。何回やってみても巧くできなくて、もどかしくて自分が情けなくなった。こんなどうでもいいことなのに、涙が出てくる。おきた時よりもぐしゃぐしゃになった髪を振り乱して泣いていたら、二階のドアが開く音がした。お兄ちゃんが起きてきたんだ!こんなところ見られたくない、と思ったけどもう遅かったらしく、リビングのドアが開く音が背後で聞える。
「うっく…え…」
「…は、おま…?」
予想通り驚いた声を出すお兄ちゃん。その声にあたしの涙はまたぼろぼろ零れてくる。
「うっ…ごめんなさい…」
「いや、別に怒ってねぇけど…」
朝食やお弁当を見て、お兄ちゃんは状況を察したらしい。ずっと後ろを向いているあたしの頭をそっと撫でた。
「頑張ったな」
「うぅ…」
お兄ちゃんはそう言うとあたしの髪に絡まったゴムを丁寧に解いた。そしてくしを手にとって結いなおしてくれた。優しくて、丁寧な手つき。やっぱりただがむしゃらにするだけのあたしとは違う。
「よし、できた。」
「ありがとう…お兄ちゃん」
見なくても、いつもどおり完璧なふたつしばりなのがわかる。そしてお兄ちゃんに促されるまま朝ごはんを食べる。お兄ちゃんはあたしが作った朝ごはんを「うまい」って言って全部食べてくれた。それだけであたしの機嫌は一変。得意げに「えへへ」と笑うとまた頭を撫でてくれた。しばられた髪が乱れないようにそっと。
こんなどこにでもあるような毎日がどうしようもなく嬉しいのです