今日は久しぶりにアイツの家に"帰る"。俺の住んでる所は屯所なんだが、アイツが言うのだ。「うちに来る時はただいまって言ってね」ただいまを言うとなればアイツの家も俺の家と言ってもいいと言う事だろう。俺はアイツのそんなところが好きなんだ。それに、夫婦だし…こんな事、絶対に言ってやんねェけど

「ただいま――…」

俺は目を瞠った。玄関で俺の妻がうつ伏せに血を流して倒れてたからだ。誰だってびっくりする。俺は慌ててそいつを抱きかかえる。髪を除けて顔を見ると、なんと息をしてている。この血の量は間違いなく致死量の筈だ。そして生きているどころか、何故か笑うのを堪えている。

「ぷ、くくっ…」
「なにしてんだテメェ」

そういうと「なんでもなーい」と言う。そしてそのまま血を片して「晩御飯?お風呂?」と聞いてくるので、とりあえず「おまえ」と言っておいた。





それから暫く、帰れない日と帰れる日がまだらに続いた。帰ることができた日には必ず玄関に死人が倒れている。日を重ねるにつれ、これは死んだフリなんだと気づいた。そして、そのバリエーションは様々だった。どうしてなのか、帰る時も連絡なんかしないのにこいつは必ず死んだフリをしてる。
今日も何時ものように家に帰る。今日はどんな死体がいるんだろう。

扉を開けば、妻の背中に包丁が刺さっている。それに、いつもよりも多くの血が飛び散っていてリアルだった。まるで殺人事件そのもの。一瞬どきりとしたが、やっぱりそれは死んだフリだ。俺は落ち着いて、

「今日のは掃除が大変そうだ」

と笑うと、こいつはうつ伏せのまま満足そうに「ククク」と笑ってた。




そしてある日、今までの奇怪行動の原因を知る出来事が起こった。

その日の死体は、普通に玄関に寝そべっているだけだった。靴を脱いでもなんの反応も示さない。俺は呆れて「おい」と声をかけるが動く様子は無い。仕方無しに抱えると、寝ているということが解った。俺は溜息を吐いて寝室へ向かう。ベットにさながら死体のように眠ったままのこいつを降ろして、そこでやっと頬に残った涙の跡に気づいた。

こいつは、淋しかったのかもしれない。
俺は根っからの仕事人間だし、家に帰っても晩飯を食ってさっさと寝てしまうことも多かった。つまり俺は仕事にばかり現を抜かして、家庭のことなど考えても居なかったのだ。
一人で過ごすには少し広すぎる我家。そこで毎日夜遅くまで俺を独りで待っててくれているこいつを想うと、俺はなんてことをしてたんだろうと思えてくる。
結婚する前はもっと合えない日が多かった。でもこいつの笑顔を見たらどんな疲れもぶっ飛んだ。それは今も、決して変わってはいない。

もう乾いてしまった涙の後を指で拭うように頬を撫でる。すると擽ったように身をよじらせるこいつが、堪らなく愛おしい。





それからも毎日、家に帰れば玄関には死体が横たわっている。
これが俺達の愛の形なら、これはこれでいいだろう。

今日はどんな死に方をしているのか、期待してドアをあける。

なんて愛しい、愛しいひと

(徹夜でパトカー飛ばして海にでも行こうかと思案してみる)



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