「俺は、名前のことが好きなんだろうか」「なんだ急に」「高杉は女遊びとかしてそう」「そりゃ、俺だしな」「最低だ」「それを決めるのはおめーじゃねえ」「女でもない?」「決めるのは俺だ」高杉は難しい奴だ。周りのルールにとらわれないへんなやつだ。でも多分俺のほうがへんなやつだ。「…てめーが好きだと思ったら好きなんだよ」「だからそれがわかんないんだって」「めんどくせー奴だな」「高杉は人を好きになったことある?」「あ?あるさ、普通に」「え゙」おれがあからさまな反応をすると高杉が俺の顔面に煙を吐いた。煙草臭い。「やめてよ」「うるせー」高杉が屋上に寝そべった。様になっている。それだけここに馴染んでいる。俺は高杉の考えてることがわからない。「名前って、アイツだろ。」「…」「あの、おめーのために泣いたやつ」「ああ、うん」高杉はゆっくりと煙を吐いた。煙が輪になって空に消えてゆく。「すげーだろ」「まあ、」満足げに高杉は笑んだ。そして煙草を屋上の床で消す。それはまずいだろ、とはあえて言わず高杉の行動を見守る。「へんなやつだな」「高杉に言われたくない」「は、それもそーだ」突拍子もないことを言う高杉にはもう慣れた。どうやら途中に関係のない話を絡めながら、俺の恋愛相談(仮)に付き合ってくれているらしい。こんなに人と接する機会が増えたのはもはや災害だ。そしてそれに順応してることもおかしいことだ。「おまえがその女のこと考えてる時点でお前の負けだろーが」「負け?」「おーよ」負け…。俺が頭を捻ると高杉はもうその話は終ったと言わんばかりに俺の反対側をむいた。寝る気か、こいつ。もう相談は諦めてコーヒー牛乳を飲むと、ケータイが鳴った。沖田が勝手に設定した、最近はやりの歌(らしい)「もしもし、」「おいてめーザキ。」「なに」「今何処にいるんでさァ、とっとと教室こい」「はいよ」ピ、通話を切る。やっぱり慣れない。「女か」「いや、沖田、さん」「ああ、俺そいつと中学一緒だった」「言ってた」立ち上がる。ずっと座ってたせいか急に血が廻って立ちくらみがする。「ま、せいぜいがんばれや」「うーん」曖昧に笑う。慣れないことばっかりだ。
所詮世界はイチゴ味
「お、来た来た。ザキィ」「なんなんですか、って…」「紹介してやらァ、こいつ土方コノヤロー」「コノヤローってなんだ」「はあ…」「んで、こっちが近藤さんでさァ」「君が山崎くんか!宜しくな!」「どうも…」沖田さんは何がしたいんだろう。「ま、土方コノヤローと仲良くしてくれや。」「え」「その間に俺ァ近藤さんと遊んでるんで」「総悟ォォオ」「んじゃ、そういうことで」「まっ……」沖田さんは俺と土方…さん?をおいてどこかに行ってしまった。どうしろってんだ「てめえ…山崎か」「あ、ああ。はい」「総悟が友達連れてくるたァ、珍しいな」「そうなんですか。沖田さんなんて友達一杯いそうですけど」「あれァ全部上辺だけ。あいつの友達にゃなれねーよ」「…土方、さんって沖田さんのことよく解ってるんですね」「まァな」そういうと土方さんはおもしろそうに笑った。「あいつもあいつでお前を気にかけてんだよ」「…と言うと?」「お前に友達がいねえ、とか言って」「……」「不器用なんだ」「それは、解ります。すごく」思ったよりも優しそうで言い人だった。更に土方は口を開く。「恋愛相談にでものってやれ、とか言われた」「ぶっ」ぬるくなったコーヒー牛乳を噴出す。土方は再びおもしろそうに笑う。へんなやつ。俺が合う人はみんな変。「土方さんって変わってますね」「あ?俺はふつーだろ」「そうですかね」「お前も普通」「え、」今土方さんは問題発言をした。例えるなら、今まで俺が必死になって積み上げてきた壁を一瞬で崩壊させるような…「普通すぎ」またそれを言う。それを解っていっているのだろう土方さん…いいや土方はまた笑う。人と話すこと、人と仲良くなること、人とケータイ番号を交換しあうこと、人と笑うこと、ひとを好きになること。慣れない、慣れない。「お前、名前が好きなんだろ?」「え」「あいつ、話すといつもお前の話すんだ。楽しそうに」「…」「沖田と一緒になって、休み時間はお前の話ばっかり」「仲、いいんだ」「沖田の友達だからな。お前も名前も」「……」「別になんら変わったことはねえ。お前はただ人と馴れ合うのに慣れてねえだけだ」「…」「俺にはわかるぜ、人をみる目はあるんだぜ」「…土方、って変」「ああそうかもな。でも変なのは普通の事だ」「なにを」「お前も変、総悟も変、名前も変、お前と仲いいらしいっつー高杉も変」「…」「そうだろ?」「…そうかもしれない」「解ったら早く行け。名前が女子の友達もいねーでお前のこと待ってんだ」「え、」「知ってんだろ?今は、お前が傍にいるときだ。」その言葉に俺は教室を後にした。ゆっくりゆっくり、背筋を伸ばして歩く。誰も俺の事をみない。誰も俺の陰口を言わない。あたりまえの、こと。・・・名前は裏庭にいた。沖田さんと一緒に昼ごはんを食べたベンチに座っている。ひとりで。こんな俺でも、名前の役に立てるだろうか「名前」「あ、さがるくん!」きっと今おれは変な顔をしている。みんながするような顔。「わからないんだ」「え?」「俺が」きっと今の俺は世界で一番どうしようもないくらい馬鹿で世界でいちばんどうしようもないくらい頭のなかがぐちゃぐちゃだ。そんなどうしようもない俺に、名前は初めて逢った日のような笑顔を俺に向けた。「あたしは、さがるが好きだよ」

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ごくありふれたものであること

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