それからだったと思う、俺の日常は変わり始めたのは。俺と名前は直に仲良く、なって家も同じ方向だったからよく一緒に学校に行くようになった。でも相変らず名前の友達は俺の事が嫌いで、学校ではほとんど口を利かない。その代わりに、俺はよくメールをするようになった。もちろん、名前と。名前は誰とでも仲がいい。頭が良い土方、父親のような寛大さをもつ近藤。もちろんクラスで一番モテる沖田とも。けど俺は、相変わらずと言うか名前以外との関わりは無に等しい。あ、でも今日は久しぶりにアレが来た。入学して初だ。きっと中学が同じだった連中の仕業だろう。今の俺、学校の上履きを履いていない。なくなっていたからだ。教務室に行ってスリッパを貰う。きっともうあの上履きはダメだな。ぐちゃぐちゃになって捨てられたのは容易に想像できた。だってこれは今までの俺の世界だったから。いつもの当たり前が、なぜだか暗くてずっしりと重いもののような感じがする。
「あ、さがる」「…名前」今日は一緒に学校に行かなかった。もともと約束してる訳じゃないし、いつも偶然逢うだけだから。きっと名前にとって俺はそれ以上でもそれ以外でもない。
「今日も一緒にかえろーね」「え、うん」そう言ってまたふにゃりと笑う。誘われたのは初めてだった。だから俺は気が動転していて、曖昧に返事をしてその場を離れた。しゅわしゅわ、どくんどくん。心拍数が上がって、顔が熱くなった。思わず俯くと目に入ったのは学校の名前が刷ってある緑色のスリッパ。薄っぺらくて冷たいそれは、俺を虚しくさせた。なんでなんで、どうして。いつもは、今までなら平気だったのに、名前に逢ってからだ。俺はおかしくなってしまったらしい。チャイムが鳴ったけど、俺は教室には行かなかった。暫く突っ立っていると教室に向かう途中であろう銀八と目が合った。死んだ魚のような目で、「授業始まるぞ」と何故か優しそうな声音で言った。そのことに俺は目を丸くした。「サボリかァ?おめーやればできんだからもっとマジメに授業うけろよ」「え、」はじめての事で、気が動転する。気が動転してどうしようもなくなって、俺は走り出した。ベタなことに、向かった先は屋上だった。はあはあと息を荒げていると、屋上の裏から誰かが出てくる。サボリが他にいたのか。じゃあ俺は別の場所に「おい」「……」「てめー誰だ」「…1Zの山崎」「なんだ、俺と一緒じゃねェか」乱暴な言葉遣いをする男の名は、高杉と言うらしい。一度も教室で見たことのないところからして、高杉はいつもこの屋上にいるようだ。
「ここは生徒立ち入り禁止のはずだがな」「…それは、高杉も、だろ」「クク…違いねえ」そう言って笑う高杉はそのまま天を仰いだ。俺もこんな風にスッキリと人と違う道を歩めたら、なんてガラにもないことを考える。「てめー、なに考えてんだ」「高杉は他の奴等とはちがうな、と思って」「は、」様々な笑い方をする男だ。嫌いじゃないような気がする。「気に入った。ケータイ貸してみろ」「は?…別にいいけど」暫く自分のケータイと俺のケータイをいじくっている高杉の様子を見守る。「てめー一人しか登録してねえのかよ」「いいだろ、別に」「しかも女」そう言って高杉は俺のケータイを俺の方に投げた。電話帳をみてみると、晋助と言う名前が新たに登録されている。「しんすけ?」「俺のファーストネーム」「へえ、」「おめえは」「さがる」「さがる…な、」高杉はそう言ってパチンとケータイを閉じた。イケメンは何してもカッコよく見える。「…迎え、来たみてえだぜ」「え?」「…さがる!」
まるで泣いたみたいな赤い眼
そこにはぜえぜえと息を荒くする名前の姿があった。


100209
100817修正

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -