寒い冬も終わりかけた季節に大雨が降った日、なんの前触れもなく俺の前に現れた少女はいまでも俺の心に居る。あれから暫く、俺はめでたく銀魂高校に入学、クラスはなんでも異常なやつが集まるらしい「Z組」特に期待に胸を膨らませるとか新スタートだとか考えるのも面倒だった。俺は中学の時も学ランだったから大した変化はないように思う。めんどうな入学式を終え、教室に入る。案の定一番後ろの席、窓際の一番後ろ。前に視線を向けると乱闘が起こっていた。俺はなるべくそれに関わらないように、ざわめく教室から窓に視線を移す。これから三年間、楽しい思い出はできそうにない。暫くすると担任と思われる白髪が入ってきた。顔は若いのに髪が白い変な奴だった。そいつはダルそうに「君達の担任になった坂田銀八でぇす」と言う。坂田銀八、名前だけ覚えればあとは何とかなるだろう。その後銀八がダルそうになにやら言っていたが俺は再び視線を窓の外に移し、退屈な時間を過ごした。あいつもどうせ俺のことが嫌いだ。俺の事を嫌いな奴と一緒に居てもなにも良いことなんてない。俺の事を好きな人なんていない。だから俺は今日もひとり、教室で影のように過ごす。
天然炭酸少年
いつの間にやら入学式の全てが終わり、帰ることが許された午前十一時。帰ろうと思い立ち上がると、見える一つの小さな影。見つけたのは俺より背が低く、深く心象に残っている少女。息を飲んだ、こんな所であの人に逢えると思って居なかった。暫く放心していると、彼女も俺に気付いたのか、話していた友達と別れ、俺のほうに歩いてきた。「おないどしだったんだね」そう言って少女はふにゃりと笑う。そのことに俺は驚いて、「憶えてたの?」と声を溢した。にこにこと笑いそう告げる少女、覚えているのは自分だけだと思っていた。「もちろんだよ。これからよろしく」そう言って手を差し出された。こんなことされたの初めてだから反応ができない。数秒すると彼女が「握手、しよ?」と短く言うから慌てて握手した。彼女の手はひんやり冷たかった。人とこんなに接するのは初めてに近い。俺は緊張していた。俺がどんなに取り乱しても顔にはでないけど、彼女はそれも全てわかってて、優しく促してくれているような気がしてならない。なんだなんだ。なんなんだ。
「あたし、名前って言うの」「…あ、俺、は、山崎、退」「さがる、かぁ…ね、退って呼んでもいい?」「え、う…うん。」先ほども言ったが人とこんなに接するのは初めてだ。俺はどうすればいいのか、まったく解らない。彼女はそれを見透かしたように「あたしのことは名前って呼んでね」と言う。「うん。名前」そういうと名前は納得したように笑った。しゅわ、もどかしい。感情とも取れぬざわめきが俺を襲った。その後暫し談笑して、俺達は別れた。名前、かぁ。何故俺と話すのかは解らないが退屈だと思っていた学校生活も、すこしはマシなものになりそうである。それにしても学校は窮屈で仕方ない。学校を出れば普通に話せる自信があるのに、校内じゃあ声が詰まって詰まって仕方ない。「名前ー」「あ、呼ばれてる。じゃあ、あとでね。退くん」「あ、ああ。うん」ぎこちなく笑った後俺はこれまたぎこちなく手を振った。しかしそれは彼女が振り返り友達の方へ向かっていった瞬間にパタリと動きを止めた。名前の友達は俺の方をみながらヒソヒソと陰口を叩いている。俺に近づいたことも無ければ俺と目を合わせたこともないような奴がおれの何を知っている。その観点で言えば、俺は名前に「退くんってうざい」とか「退くんってきもいよねー」とか言われてもなんの言い返しもできないのだ。彼女がそういうなら、きっと普通の人たちの中では俺は「うざい」そして「きもい」のだろう。だって名前は人間のうちで一番俺のことを知っている。
「きゃあ、山崎くんがこっち見たあ」「やだあ」「……」「あっ沖田くんがこっちみてるう」「うそっやったあ」「……」「……、」名前と一緒にいる二人の女子が俺と、…沖田?に対して同じことを言っている。でも態度はかなり違う。そのことに名前はずっと顔を顰めていた。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -