俺は昔から変な奴だった。どこが変なのかはしらない。皆が俺を変な奴だという。変な奴の近くにいると変がうつるから皆は俺の傍に寄ろうとはしない。それが俺の当り前だ。俺は変な奴。どこが変なのかしらないし、知りたくもない。そう思う俺はどうせ人間が嫌いで逃げてるだけなんだ。そんな自分もきらい
リボン結びの動脈
俺の当たり前がなくなったのは、高校受験を控えた中三の秋頃、進路も特になく、流されるように受験を決めた高校。親は俺を捨ててどこかに行った。生活費だけが今俺と親を繋いでいる。そのおかげもあってあまり金のかかる高校にはいけそうにない。なので別に勉強なんてしなくてもいけるんじゃないだろうかという位の、自分にあったそれなりの高校を選んだ。教師は何も言わなかった。俺の事が嫌いだからだ。高校も決まって受験もたいした問題はない。日曜の昼下がり、突然に俺は散歩に行きたくなったので家を出た。すると外は土砂降りだった。でも傘は学校に持っていったら骨が折られて捨ててあったので今は使い物にならない。新しいものを買わなくてはとは思うのだが中々買い物に行く機会がない…というか買い物に行く時には丁度良く傘の事は忘れているのだ。これが変と言うのかとかはよく理解できないがとりあえず俺はさす傘もないのでそのままアパートを出た。さてどこに行こうか、なんてことを考えながらぶらぶらと放浪する。こんな時間が好きだ。俺が好きなもの。散歩、動物、植物。あとはみんな嫌い。たぶん。ざあざあ降っていた雨が更に酷くなったような気がした。人通りが少ない中、傘を持ち早足で歩く大人たちは皆俺を奇怪な目で見た。傘をさしてないのがそんなに珍しいか。傘を忘れたってことも考えられないのか。それは、俺がゆっくり歩いてるからか。理解できないからか
「…あ、」散歩は好きだけど、散歩中に出逢う人間は嫌いだった。俺の事を何も知らないくせに俺を勝手に決め付けたような視線を投げつけてくるから。ムシャクシャしたのかどうかは良くわからないけど、石を見つけたので蹴ってみた。それはコロコロと転がってなにかにあたって止まる。それは道端にまるで捨てられたかのように横たわる猫、白だったと思われる毛は雨水や土なんかでどろどろに汚れていた。…死んでいる。さっき通りすがったおばさんはこの猫に気づきもしないで歩いていったのだろうか。それとも気づいて、こんなところに放置したのだろうか。自分のことでいっぱいいっぱいな人間は醜く見える。俺はその死体を抱えて、歩き出した。少ない通行人が俺をじろじろ見てるのがわかる。傘をさしてないからだろう、それともこの猫を抱えているからなのか。他人の考えは自分にはわからない。だから考えても仕方がないのでそのまま進む。着いたのは割りと大規模な公園。この正面の入り口から一番遠いところにある茂み。鳥とか猫とか、たまに犬とかの死体を見つけると俺は必ず死体をここに埋めてやる。野良だからって家族が居ないからって、人間じゃないからって墓を作ってもらえないのはどうかと思うからだ。いや、もともと墓を作るという概念すら間違ってるのかもしれない。俺はこいつらを土に戻してやる。土を掘る。生憎俺はスコップを持ち合わせていないので手で土を掘り返していく。他の動物たちが眠る場所を避けて、雨が降っていたからか、土は軟らかくいつもよりは簡単に掘り返すことができた。そこに猫を埋め、土を掛けてやる。埋め終わった、猫の墓に手を合わせて目を瞑る。聞えるのは雨の音、だけ。だから後ろから声を掛けられて物凄く驚いた。
「ねぇ、」「…え?」振り返るとそこには俺と同年代、いや、もう少し幼い位の少女が居た。どうしてこんなところに居るんだろう、とか、なんで俺のことなんか見てるんだろう。なんて薄ぼんやり考えてたら、また少女の高めの声が雨の音に遮られながら俺の耳に届いた。「なに、してる、の」その声は疑問系ではなく、だからと言って悪事を追求するようなとげもなく、ただなんの抑揚もない。
「猫を埋めてた」「ねこ?」「うん」そう言うと少女は「そう」と言って俺の隣にしゃがみこんだ。「どんなねこだった?」「し、白くて、ちょっと太った猫…」「へえ、きっと可愛いねこだったんだね」こんな風に積極的に話しかけられたのは初めてだった。だからなのかよく解らないけど、俺は喋りたくなった。調子にのっていたんだ。こんな気分になるのは始めてた。だからどうすればいいのかもよく解らない。
「道端で、死んでたんだ」「うん」「いつも動物の死体をみつけると、ここに埋めにくる」「うん」「俺を変だとは思わないの?」思わず本心が出た。少女はきょとんとした表情をして、笑った。彼女のさしていた大きめのビニール傘に俺の頭が入る。どうやら入れてくれたようだ。他人のとこんなに接触したのは初めてで、俺はただ返事を待っていた。
「変じゃないよ」「変じゃない?」「そう、ただちょっと皆より優しいだけ。優しくて、他のだれよりも不器用なだけ」彼女の言う事が解らなかった。暫く沈黙が続き、彼女は「時間だからもう行くね、また、会えるといいね」と俺の元を去っていった。きゅう。血管が締め付けられるような気がする。…へんな子。俺はその日、初めて人を変だと思った。

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