もう何度目か解らない目覚めをすると、視線の先には銀色と蜂蜜いろと漆黒の何かがあった。寝呆け眼を擦ってよくよく見てみるとそれはよくしった顔だった。
「あれ…」
「起きやしたか」
「だいじょーぶ?」
それはおにいちゃんと総悟とトシ兄だった。むくりと起き上がると、総悟がいつの間にか買ってきたらしいスポーツドリンクをくれた。こくこくとそれを飲むと喉がスッキリして、まだ覚醒しきっていなかった頭が冴えてきた。
「大丈夫か?」
「うん。大分楽になったよ」
「そっかー良かったぁ」
お兄ちゃんが安心したように溜息を吐く。あたしがごめんね、と言うと抱きついてきた。風邪が移ると悪いからすぐ離れてもらったけど。
「じゃあ俺ら帰るわ、」
「あとは兄弟二人で仲直りでもなんでもしてくだせェ」
そう言って立ち上がるふたり。総悟の言った仲直りというフレーズに一瞬首を傾げるもすぐに状況を思い出してしまった。そうだった。高杉先輩の…すっかり忘れてた。
総悟とトシ兄が家を出て、お兄ちゃんがプリンを食べ始めた。いつもどおりに見えて、空気が張り詰めているのが嫌でも解った。ちゃんと謝らなきゃ。
「あの…」
「ごめんなさい!お兄ちゃんはあたしの事考えて叱ってくれたのに我侭ばっかりいたりして、ごめんなさい!!」
お兄ちゃんに責められたり謝られたりするのが嫌だったからお兄ちゃんが口を開いた瞬間に謝ってやった。するとおにいちゃんはぽかーんと口をひらいてその言葉を飲み込んだ。そして刹那優しい厳しさを孕んだ表情。をして、あたしの頭に手を乗せた。あ、手、冷たい。
「うん」
その言葉がなにを物語っているのかは、正直いまいち解らなかったけど、お兄ちゃんの気持ちは少し解る気がした。
冷たい、優しい
100306