朝起きた。ら、なんだか頭がくらくらした。すぐ傍にはまだ夢の中にいるお兄ちゃん。幸い生活に支障を来す程の頭痛でもないので、そのまま朝の支度にとりかかった。

「ん〜」
「お兄ちゃんおはよー」

朝ごはんとお弁当は低血圧なお兄ちゃんの為に私が作る。休みの日はお昼ご飯はお兄ちゃんが作って、晩御飯は先に帰ったほう、もしくは二人で作るきまりだ。
古めかしい茶色いちゃぶ台にトーストを置いて、私用のピーナッツバターとお兄ちゃん用のいちごジャムの瓶も置く。するとお兄ちゃんはもそもそとパンにジャムを塗り始めるので、私はそのままお弁当用のたこさんウインナーをお兄ちゃんの水色のお弁当箱と、それよりも一回り小さい桃色のお弁当箱につめる。

「お兄ちゃん、わたしのパンにもピーナッツバター塗って」
「ん〜」

まだ半分寝ているお兄ちゃんを急かしながら、お弁当箱を手早く包んで洗面所に向かう。顔を洗って髪型を整えて制服に着替えて洗面所を後にすると、ガラパン一丁でお着替え中のお兄ちゃんが居た。

「うわっ、もーやめてよ」
「ん〜、仕方ねえだろ…」

お兄ちゃんが塗ってくれたピーナッツバターのパンを頬張りながらニュースの占いをチェックして、あ、てんびん座が1位だなんてお兄ちゃんの星座をチェックしてしまう。
学校に持っていくもののチェックをしていると、お兄ちゃんのゆったりとした声がした。

「名前〜、アイロンかけてあるシャツがない」
「えっウソ、ごめん!すぐするから先に歯ぁ磨いてきてよ」
「ん〜」

筆箱を乱暴にバックの中に押し込んで、即座にアイロンを熱してアイロン台を組み立てる。
なるべく丁寧に、だけど素早くアイロンをかけながら時計をみると、もう家を出る時間の三分前。どうしよう私まだ歯磨きしてない!アイロンのコンセントをひっこぬいて洗面所に走ると、お兄ちゃんは悠長に髭を剃っていた。

「そんな時間ないよ〜!急いで!」
「ん〜揺らすな。切れる」

狭い洗面所でぎゅうぎゅうになって歯を磨いていると、家のインターホンが鳴った。

「坂田ァ」
「はーい!待って!すぐ行くから!」

歯ブラシを咥えたままお兄ちゃんのシャツを取りに行き、すぐ洗面所に戻って今度はその銀色の天パと格闘しているお兄ちゃんに乱暴にシャツを着せる。

「ちょ、名前、痛いって」
「うるさい。お兄ちゃんがもたもたしてるのが悪いの!」

ボタンをとめ終わり、すぐにうがいをして、部屋に戻って二人分のお弁当をバックに詰めて、洗面所を出てきたお兄ちゃんにお兄ちゃんの薄っぺらいバックを渡し、スニーカーの靴紐を結ぶ。勢いよく玄関の戸をあけると、ガツンと厭な音がした。

「〜ッ!」
「うわ、トシ兄、ごめん!」
「情けねェなァ土方ァ」
「朝から賑やかね〜お前ら」

戸の外側に居たのは幼馴染のトシ兄と総悟。毎日一緒に学校に行っている。この近所の銀魂高校に通う私と総悟は1年生、トシ兄とお兄ちゃんは3年生だ。

「ご、ごめんねトシ兄」
「もういいから、前見て歩け」
「うん!」

いつの間にやら頭がくらくらしていたことなんてすっかり忘れて、いつもの楽しい日常が始まろうとしていた。



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