ピンポン、やけに透き通った、耳を走り抜けるような音のインターホン。トットットット・・・とリズムを刻んで近づく足音。いつもと変わらない音。それが酷く、私を安心させて、同時に深い後悔を呼び出した。

「どちら様…って、お前」

出てきたトシ兄は、私の泣いた顔をみてびっくりした顔をして、そしてすぐ何かを覚ったような顔で僅かに微笑んだ。
それに酷く安心してしまって、何とか堪えようと顔を顰めていた私の努力も虚しく、先ほどまでより大粒の涙が頬を伝って落ちていった。

「ッ、トシ、兄…っく」
「……とりあえず入れ」
「うっ…うう、トシ兄ぃ…」
「…おー、わかったわかった。わかったから。玄関じゃ冷える」
「ん…」

中に入ると、幼い頃遊びに来た時とほとんど変わらないトシ兄の家。幼い頃の記憶をなぞるように何度も通った廊下を進んで、トシ兄の部屋に向かう。だけど、幼い頃の記憶と完全に合致することはなかった。お兄ちゃんが、いないから。

「おせーぞ土方…って、名前」
「そうご…」
「兄貴と喧嘩したんだろ、恐らく」
「ふーん、何となく想像つきまさァ」

総悟は、詳しい事の成り行きを知っているようだった。まあ、疑問には思わない。総悟はいつもそうだった。いつだって皆知ってて、明らかに私が悪い時でも、私を責めたり、諭したりしなかった。そう、いま、今みたいな顔をして、私の背中をゆっくり擦ってくれるんだ。みつばお姉ちゃんと一緒。ほんと、優しいところだけはそっくり。

「ふうっ、っく、ん…」
「よしよし」

トシ兄だって、いつもは大した事ないことですぐ私を怒るくせに、こういう時はまるで大人みたいな顔をして、誰かに泣かされたり喧嘩して逃げてくる私を受け入れてくれるんだ。

「…っ、」
「落ち着いたか?」
「ん、うん」

沢山泣いたから、目が腫れてるのが鏡を見たり触ったりしなくても分かる。鼻水も気をつけなければ垂れてしまいそうだ。総悟に無理やりティッシュを宛がわれて「はい、チーンでさ」と子どもみたいに鼻をかまされる。

「で、お前はどうして泣いてんだよ」
「…それは、っその」
「ゆっくりでいいから」
「……どうせ、大体わかってるんでしょ」
「名前の口で聞かなきゃ動けないんでさァこのシスコンは」
「うるせぇ、てめーはちっと黙ってろ」
「あのね、トシ兄、お兄ちゃんがね、けが…」

じわりと、また涙が溢れそうになる。

「だって、たかす、ぎさんも、おにいちゃんも、わるいことしてないし、」
「うん」
「おにいちゃんも、わたし、の、ために、けんかしてっそれで…っそれで」
「はい名前落ち着いてーすーはー」
「すぅー、はぁー…」
「はい続き」
「それで、ね、わたしね?なんだか、なんて言うか…その、かなしいっていうか、くるしいっていうか…よく言えないけど、それで、おにいちゃんに、もうしらないって…」
「あー」
「そりゃ旦那傷ついてるだろうねィ」
「あ、あやまらなきゃ」
「そうだねィ、名前は謝ったほうがいい。だけど旦那も旦那でィ」
「この年になってまだ妹離れできてねぇなんてな」
「それはお互い様だろィ」
「うっせ。名前ももう高校生なんだから、自分で決めたっていいんだ。それを犯すのは、たしかに銀時もやりすぎだ」
「…うん、わかった」
「名前、あの、高杉ってやつ好きなんですかィ?」
「えっ!?わかんな…違うよ!」
「ふーん」
「ほー」
「え?な、なに?違うからねっ」



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