「正直今まで妹なんていてもいなくても同じ…つーかむしろ邪魔だと思ってた訳よ」 申し訳なさそうな、困った事があったかのような、少し嬉しい事があったかのような、なんとも形容しがたい顔を俺から逸らす銀時。 「だけどな、笑うんよ。俺の顔見て。今まで転んで泣いてた癖に、お兄ちゃんって俺のこと呼んで、笑いやがる」 ガリガリとボリューミーな頭をかきむしり、遠くを見た。 ああ、こいつはもう、俺らと同じじゃない。 「悪ィな高杉。俺、ロリコンかもしんね」 そして、そうだ。ああ言ったんだ。 「名前に彼氏とかできたら、俺そいつぶん殴っちゃうかも」 銀時の拳が俺の右頬にめり込む。まさかこんなことになろうとは、誰が予想しただろう。だが俺も、負けずに拳をめり込ませる。銀時が軽く飛んで後ろにあった物にぶつかり、崩した。 「…銀時、テメェ、弱くなったか」 当然と言っちゃあ当然だ。俺は昔からずっとこんな事ばっかりして過ごしてきたんだ。そりゃあ強くもなる。一方こいつは、あの時から恐らく人を殴ってねえ。それでも"負け"ではなく"劣勢"なのは、こいつの天性の才能としか言いようがないだろう。こいつ、銀時は…今どんな思いで俺を殴ってるのか。んなこたあ皆目見当がつかねえ。 「ああ、やだやだ。よりにもよって俺が殴るのが、高杉って。はあ、やだやだ」 「…言っとくけどな、あの女にそういう興味はねぇ」 「どうだか」 目が合う。死んだ魚ではない。 「今の俺じゃあ高杉センセーに勝てる訳ねェし。ったく名前のヤツ」 「…あいつなら怒りそうだけどな」 「あ?何が?」 「お前がそんな顔して帰ったら」 正面から銀時の顔を見て、思わず笑う。銀時は腹を立てているが、これは笑っても仕方ない。 俺に殴られて、傷だらけの顔。口だけは歪に笑っていて、情けなく下がった眉。 これは笑うだろ。 「あいつ、オメーの妹。俺と話てる時もお前の話ばっかしてた」 「え?マジ?」 「俺ぁ嘘吐かねーよ」 「…そか、ふうん」 んな嬉しそうな顔すんなよ。余計笑っちまう。 「でも、おもしれーやつだな、妹。名前っつたか」 「おう。当然だろ、俺の世界一の妹なんだから。いやマジで」 「シスコン」 「いーんだよ名前はブラコンだから。世間の目とか気にしません俺たち」 こいつ、頭イカレてやがる。 「まあ、いいかもな」 「あ?何がだよ」 「名前」 「は?言葉によっちゃあもっかい殴るよ」 「やってみやがれ。名前…な、ふうん。名前覚えた。おもしろいじゃねーか」 俺が女の名前を覚えるなんざ、滅多にねえことだ。さあっと、面白い位に銀時の顔が青ざめた。 ←→ |