「…苗字さんには今まで後輩として可愛がってもらいました」
「え?うん、まあ、そうだね?」
影山は可愛い後輩だ。無愛想で口が悪い。そんな表面に反して、バレーに対してとても真摯。そして馬鹿みたいにまっすぐで素直だ。
憧れるのもおこがましいような才能を持っていながら、それに甘えずストイック。きっと才能は努力で勝ち取るものだと知っているんだろう。そんな、明らかに自分より優れている後輩が、心強くもあり、ちょっと嫉妬したりもした。
でも、
懐かれてみろ。バレーボールを追うのと同じくきらきら輝く瞳で追いかけられてみろ。私の指摘を真面目に捉え、検討、実践して、うまく行くと本当に嬉しそうに駆け寄ってくる。褒めると更に、普通じゃ決して見せてくれないような顔で笑うから。
だから影山は少なくとも、私にとって可愛い、特別な後輩だ。
「でも、もうそれじゃダメなんです」
どういうことだろう。
色々考えるけど、どれもリアリティに欠ける。
「どういうこと?」
悲しい話じゃないといいな。可愛い後輩だもん。
影山が口ごもる。なんて珍しい。あんなにはっきりと自分の意思を主張する奴なのに。
まっすぐな瞳で私を捉えて、一生懸命に私に伝えようというような表情で、その言葉は紡がれた。
「好きです。名前さんが」
「へ」
それっきり、影山は黙りこんでしまった。元からよく喋る奴ではないけど。私だって何をいえばいいのかわからない。
きっと、不安で仕方ないのだろう。仏頂面で、私の顔を見ることもできないようだ。ただただ不機嫌そうな顔でその不安を隠し、じっと私の答えを待っている。
「…」
私にとっての影山は可愛い後輩でしかなかった。ほんのさっきまでは。
後輩の戯言と受け流すのは簡単だろう。今まで影山と恋愛云々など、考えたこともなかった。だけど、今こうしてひとりの男女として向き合った時に、不思議と違和感や嫌悪感はない。
だけど、私の中の影山はあくまで可愛い後輩だ。
私は、どうすれば。
無意識に影山の頭に手が伸びる。髪の毛はさらりと私の指を弄び、あっと言う間に逃げだした。
こんなにすぐ触れるほどに、私たちの距離は縮まっていたんだ。今までそんなことにも気がつかなかった。借りてきた猫のように大人しく、俯きがちに髪を弄ばれる影山は、やっぱり可愛い。
「年下扱いすんのやめて下さい」
「うん、でも影山はかわいいなぁって、思ってさ」
傍にいて心地よい。異性として好意を持たれていると自覚しても、不安になったり怖くなったりはしない。…好き、なのかもしれない。私も、影山を。
「…俺も男なんスよ?」
消えてしまいそうな声でドキドキしますと呟いた。
「そんな、こと、言われると」
「はい」
「私のがドキドキする…」
自分の気持ちに気がついた途端にこれは、ずるい。
かっと頬に熱が集まるのがわかって、顔色の変わらない後輩の手前、なんとなく恥ずかしい。
影山の頭に置いていた手を自分の頬に当て熱を隠す。しかし、すぐにその手は影山に取られ、握られてしまった。
「名前、さん」
「…うん」
「好きです」
好きなんです、と念をおされた。もう逃げられない。
唇を尖らせ、じっと私の答えを待っている。その姿は紛れもなく可愛い後輩で、

ふと目が合う。困ったような表情に、ぎらりと本気の目。それにつられるように、勝手に喉が鳴った。言え、言わなきゃ。
「私も、かな」
これが私の精一杯。
反応が気になりつつも顔を見れないでいると、私の手を握る力がほんの一瞬弱まり、その後きゅっと強くなった。そっと顔を覗く。
影山に変化はない。ぼうっと私の顔を見たあと、夢から醒めたかのようにいつもの影山に戻った。かのように思われた。
「……あっ、えっと、ありがとうござい、ま、」
みるみるうちに影山の顔が赤くなっていく。それと同じように声も小さくなっていった。私は呆気にとられてしまう。なんだ、この可愛い生物は。
すぐに俯いてしまったけど、耳まで真っ赤になってるのはバレバレ。
影山が大きく深呼吸した。緊張を孕んだ期待の眼差しで射抜かれて、こっちの心臓も追いつかない。
「……名前、」
「うん」
「キスして、いい、か?」
まさにいっぱいいっぱいという言葉が相応しい。 それでも手は離れない。余計にきゅっと力を込められてしまった。
そしてふと思う。両想いだってわかった途端に後輩をやめるなんて、結構肉食系なんだ、影山。
「いいよ」
僅かな力で腕を引かれて、そっと唇が触れ合う。影山に惹かれていく。


きみが宝物になる


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