きっとスガは望まないだろう。

「ねえ、スガぁ」
「んー?」

私たちには曖昧な距離でほのぼの笑ってるのが似合ってる。

「スガさあ……」
「うん?」

放課後の教室に2人だけ、とか。夕日の見える坂道でふたりきり、とか。そういうシチュエーションなら口を滑らせたかもしれない。
間違っても、体育館の用具室で言うようなことじゃない。
いつ誰が来るかわからないし、体育館では沢山の仲間が部活開始の準備をしている。

「どうしたー?」
「ううん、なんでも…大丈夫」

だめだ。こんな話の切り方、心配させる。

「…名前?」
「ごめんごめん!何言うか忘れちゃった!思い出したらまた言うね」
「ん?なら、いいんだけど…」

うまく繕うことはできなかったみたいだ。
怪訝そうなスガを置いて用具室から逃げ出した。

好き
大好き、愛しい。
苦しい。

誰にも言ったことはないけれど。言ってしまいそうになるけれど。

随分長い片思いだし、きっと実らない。
私はヒロインにはなれない。
良い友達でいよう。部活の仲間で、楽しく笑えるように。

皆懸命だ。勝つ為に、少しでも長くコートに立つ為に。
コートに立たない監督も、コーチも、清子も、私だって。
勝つ為にできることはなんだってする。勝って欲しいと心から思うから。

私達と試合を見つめる事が増えたスガに対して、思うことがない訳がない。
だけど何も言うべきではない。見つめる事しかできない。気にしてると思われちゃいけない。スガの為に、チームの為に。
スガの心を乱すべきではない。

私は烏野高校排球部が大好きだ。
全力で今を駆け抜ける電流のような感覚が、むせかえりそうな情熱が。

だから、どっちも大切だから。

「ねえ、スガ」

部活帰り、夕日の見える坂道で、ふたりきり。

「ん?言う事思い出したべ?」
「うん!」

心は妙に晴れやかだ。

好き、好きだ。スガが大好き。
さり気なく気を使ってくれるところ。溢れるとめどない優しさ。応援するまでもなく今できる精一杯を追いかける瞳。皆に愛される笑顔。
抱きしめて欲しい。キスしてほしい。もっと私でいっぱいになって欲しい。独り占めしたい。
愛しさで心が埋まりそうだ。

「私、今が大好きだ。皆で部活するの、大好き」

一斉一代の告白。失恋するための、答えの決まった告白。
ありがとう。ごめんね。大好き。
私はやっぱり、ヒロインにはなれないや。


「俺も!」


お気に入りだったゾウのリュックも愛しい人へ伝える為の愛の言葉でさえ、あの小さな銀色の箱の中に詰め込んできてしまったの


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