馬鹿というのは、ひとつの事に夢中になると他はまったく見えなくなるものだ。
だからもう恥じらいとか無いんだ。こいつには。
「ツッキー」
「やだ」
「…」
「……」
「助けて」
「やだって言ってんじゃん」
私が助けてって言う前にやだって言ったくせに。
ただならぬ雰囲気を察してか、部室に入っても体育館に移動しても誰も私達に近づこうとしない。
「…もうすぐ部活はじまるよ」
「おう」
「日向と競わなくていいの」
「…おう」
「嘘つき」
私が部室に入った途端に急いで着替えて、日向が走っていくのを恨めしそうに、羨ましそうに睨んでたのに。
「行けばいいじゃん」
「好きって言うまで放れねぇ」
「…あっそ」
馬鹿には何を言っても無駄だ。部活が始まったらどうするつもりなんだろう。
流石にそればかりは、私が部に迷惑をかける訳にはいかない。
だから仕方ない。うん、仕方ないんだ。これは。
「…影山」
「おう」
しかし、言い訳を選んだって、本心は変えられない。
影山を部活に送り出すためだけにこの言葉を使うなら、こんなに緊張する必要はない。
だけど、それでも緊張するのは、まあ、つまり
「好き」
この言葉が、本心だからな訳で。
「…!」
「人に言わせといて何驚いてんの、早く部活行ってよ」
馬鹿ばっかでバカバカしい