「な、泣くな」
まるで子供慣れしてないオッサンが、突然泣き出した幼児に向かっていうような声色と表情だ。いや、俯いているので顔はわからないけど。
一時的にでも、彼の頭が私でいっぱいになるのが快感だった。
「泣くなよ、どうした。言ってみろ」
いつになく饒舌だ。あなたはこんな一面も持ってたんだ。それをあの人は、きっとずっと昔から、知っていたのだろう。
私が首を横に振ると、バリバリと頭を掻く音が聞こえた。相当困っているらしい。
だけど、言えるわけないじゃないか。
「…わかった。もう何も言うな。一人になりたいよな」
ギッと立ち上がる音がした。ああ、いなくなってしまう。
そっと顔をあげた。熱を持った瞳で土方さんを捉える。
そばにいて、あの人のところに行かないで
あのひとはもう、いないのよ
「…大丈夫か」
「うん…もう大丈夫」
あなたは何もわかってない。
私が笑ってみせると、あなたは安心してふっと頬を緩ませるのだから。
逆さまつげが痛いだけ