着物の裾から見える肌は真っ白な包帯で覆われていた。腰まであった髪も所々中途半端になくなっているし、右の後ろから二番目の歯がない。それに伴ってなのかどうなのか右の頬は大きく腫れ上がり、しかもその上からぶ厚いガーゼがあてられているので、今の私の顔面なのとても見れたものではない。目が赤いのは丸一日昏睡したからだ。実は結構前から起きていて、自分の情けなさに涙がでたとか、そういうんじゃない。とにかく全身傷だらけの私は、今目の前にいる鬼をどうにかしなければならない。体中が鈍く痛むし、雨に打たれたせいで体中不潔な感じがするし熱もある気がする。とてつもなく空腹なのに胃が何も受け付けなさそうな不快感。ああ、もう、鬱陶しい。

「あやまればいい?」

筋肉が強ばって文字で表したようなわかりやすい言葉にはならなかった。ただ、私のこの投げやりな態度と、どうしようもない悔しさは、十二分に相手に伝わったことだろう。

「馬鹿なこと言うな」

顔が見れない。

「どれほど心配したと思ってる」

うーん、皆が大きな斬り合いに行った時ひとり残された時くらい心配してくれてたら嬉しいな。
言いたかったけど、今の私にこんな長いセリフを言うことは無理だ。

「犯人の特徴を言え」
「転んだだけだから」

私の取ってつけたような嘘で随分気分を害したらしい。少しの沈黙の後、今までの命令口調とは打って変わった懇願するような声を漏らした。

「見方か、敵か。それだけ言えよ」

あまりにも痛々しい声だった。思わず包帯だらけの手で頬を撫でる。そしたら手を掴まれて、頬に擦り付けられた。伝わるのは、これ以上仲間を失いたくないという思い。

「ひとりの人間に執着しちゃだめ。人間でいられなくなるから」

先生は人を愛することを説いた。人と人とのつながりの大切さ、ひとりで彷徨うことの恐ろしさ。
今の私たちは人を愛せているだろうか、胸を張って人間だと謳えるだろうか。

「………名前」
「ごめんね、大丈夫。大丈夫。大丈夫だから」

胡散臭い奴に聞いた。女の言う大丈夫はちっとも大丈夫なんかじゃないって。だから大丈夫って言う女は弱ってるから落としやすいって。
だけどこれ以外になんと言えよう。こんな有様で更に助けてなんて言っていたら、この先生きてなんかいけない。他を責めることなんてできない。この世界では全てが自業自得だ。負け戦に足をつっこんだのは自分なのだから。

「……ごめんね」

敵が同じというだけで、味方や仲間なんかじゃないんだ。本当は。立派な侍の心を持つ奴がいれば、ずる賢く生きてる奴もいる。死ぬつもりでここに来てる奴もいる。

「銀時」

できれば、ひだまりのように暖かく。
先生のように、銀時を温められたら。
なじって、たえて、ゆるして、うらんで


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