死ぬまで生きたい。何を言ってんだか訳わからないだろうが、私の気持ちを最も簡潔に表すならばこれだ。
要するに、私の命が尽きるまで私らしく輝いていたい、のだ。

「だけど、今の私は死んでるの」

寒いからっとした冬空を見上げる。古めかしいストーブの横に黒い人工革のパイプ椅子。本棚で見えない白い壁と、ささくれだった床。それら全てを覆い尽くすような膨大な本やプリント、甘いお菓子の空。媚薬ような甘い臭い。
ストーブの真横に座っておきながら、窓を開け空を見上げる私に、先生は非難の眼差しを向ける。

「さみーよ」
「聞いてよ先生。今の私は死んでるの」

先生は真っ白な髪をわしわし掻いて、深くため息を吐き、ギシリと音を立てて立ち上がった。白衣のポッケに手を突っ込んで…きっとあの手は、丸付けの赤ペンがついて汚れてる。私のすぐ近くで止まり、さも当然のように窓を閉めた。窓の鍵の更に小さな鍵のようなものもご丁寧に閉めている。

「先生」

刺のある声で言い放った。先生は眼鏡越しに私を見下ろした。ぞくりと背中が粟立つ。

「先生さ、テストの丸付けの最中なんだよね」
「…知ってる」
「本当はお前、ここにいちゃいけないんだよねぇ」
「…先生、ごめ」

「教室、行く?」

窓は閉まってるのに、風なんか入ってこないはずなのに。背中がびゅうっと寒くなって、先生の口が弧を描く。

「ごめ、ごめん、なさい。先生、やだ」

先生は何も言わない。ただじっと私のすぐ近くで私を見下している。
体がこわばって、視線が定まらなくて、先生と目を合わせるのが恐い。
私が恐怖に慄いていると、上から乾いた笑いが降ってきた。

「うそうそ、ごめんな。」

やっとの思いで先生の顔をみて、その眼差しに、やっと肩の力を抜く。
先生がしゃがみ、私の膝に組んだ腕を置いて、その上に頭を乗せた。
ひざ掛けごしに感じる先生の感触に、私のどこかが変な音を立てた。

「ごめんな、お前見ると、なんかいじめたくなっちゃうんだわ」

するりと私の太ももを撫でた先生の汚れた掌に、嗚呼。

星屑はミルキーウェイに沈む


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -