寒い寒い午後3時半
赤いマフラーで口元まで隠した想い人を見上げる。いつもとまったく変わらないだらけきった眼差し。いつもまっすぐを見つめていて、私にはちらりともしない。
「ねー、銀時、肉まん買ってよ」
やっと一瞥される。彼はは表情で思いきりわかりやすく意思表示した後、諦めまいとまっすぐに銀時を見つめる私にため息を付き、指先で軽くマフラーをずらした。
「セーブオフで90円だろ?そんくれーテメーで出せよ」
「そんくらいおごってくれたっていいじゃん」
銀時に軽くパンチを入れると、やっぱり寒いのかまた口元をマフラーにしまう。
「無理無理、俺今日財布持ってきてねーもん」
もごもごと嘘をつく。銀時は、本当はあまり私を好きじゃないんだろうか。
いや、両想いではない。友達として、私を好意的に見ていないのかもしれない。
「体育のあと自販機でおしるこ買ってた癖に」
「おまっ、見てたのかよ」
それは少し、いやかなり、寂しい。
「見たくて見たんじゃないよ、たまたま、ぐーぜん」
一度そんな風に思ってしまうと、もう後戻りはできず、だから私と目を合わせてくれないんだとか、あんまり喋りたくないから口をマフラーでしまったんだとか、しょうもないことばかり考え始める。
「ま、まあ、どちらにせよ財布にはしるこ買う分の金しか入ってなかったからな、諦めろ」
「五百円玉で買ってた」
「ウッ」
「諦めろ、銀時」
銀時の体を私の体でぐいぐいとコンビニへ追いやる。手はあんまり寒いのでポケットの中にしまっているのだ。銀時の体は思いのほか容易くコンビニへと流される。
「あー、あーっ、もう、あんまくっつくな」
「…あ…、ごめん」
嫌、だったかな。そりゃあ嫌いな奴にくっつかれて嬉しい人などいるはずがない。ぱっと体を離してこの微妙な表情を見られたくなくて俯く。
銀時の表情もわからない。よかった。嫌な顔をされてたらもう耐えられないから。
「なんだよ…急にしおらしくなりやがって」
ずるかったかな。こみ上げてくるものを飲み下しながら顔をあげ、精一杯に笑ってみせる。
「…はあ、しゃあねえ、買うか。あんまん」
「えっ、」
「馬鹿、お前のじゃねーよ。お前はにくまんが食いてーんだろ?俺はあんまんを食うの。俺の金で」
「え、えっ」
私が戸惑っているあいだに、銀時はさっさとあんまんを買ってコンビニから出てしまった。慌てて追いかけると、ほかほかのあんまんにかぶりつこうとする銀時が、ちらりと私を見た。銀時が、私を、見た。
「おまえ、その顔やめろよ」
「え、」
「そんなにジッと見られっと、なんか…困る」
「ご、ごめん?」
よくわからないままに謝る。するとひとくち齧られたあんまんを口に押し付けられた。
「好みの味じゃなかった、から、やる」
「は、はひはほ…ありがとう」
もらったあんまんを口から離して銀時を見上げ…あ、あんまりジッとみちゃいけないのか。ふっと視線を逸らすけど、どこを見ればいいのかわからず、視線をさ迷わせたあと、結局あんまんに帰ってきてしまった。
ちょっと、銀時。まだあんこまでたどり着いてないけど。
それは優しい降伏でした