「青峰くぅん、これなーんだ」

屋上で午後の授業をサボッていた青峰。彼に、たこ糸とするめで作った対ザリガニ用釣竿を見せると、彼は久しぶりに目を輝かせたのだった。

ミニバケツと、件の釣竿と、私を自転車に乗せて、青峰は至極ご機嫌に風を切る。
割と都会に位置するこの町でも、探せばザリガニが捕れる場所くらいならいくらかある。いつもならやれ重い、やれお前が漕げなどと口ばかり達者でちっとも進まない青峰運転の自転車も、目的がザリガニとなれば前髪が捌けてしまうほどの風で私を涼ませた。道のりからして、青峰が向かっているのは学校に一番近い川だ。駅と反対方向に向かうだけで少しずつ増える緑と、授業中であるはずのこの時間にまさかザリガニ釣りをする高校生がいるなんて、と言う滑稽さに、ほんの少し笑った。

「風は涼しいけど、青峰暑い」
「じゃあ捉まってんな」
「落ちる」
「落ちんな。踏ん張れ」

あ、落ちろって言わないんだ。些細なことかもしれなかった。だけど、その些細なことが、ちょっぴり嬉しい。
暑い暑いと言いつつも、やっぱり青峰にしがみ付く。じんわりと青峰の背中の汗を感じたけど、私も青峰も何も言わなかった。

「あんま広い川だとなぁ、いねーんだよな」
「じゃあもう一個向こうの川にしようよ、あそこ木がいっぱいあって涼しいよ」
「んー、そうすっか。つうかお前も釣んの?」
「当然。誘ったの私じゃん」
「下手糞の癖に」
「黙れ」

自転車が急に方向転換した。もう一個向こうの川に向かうのだろう。でもあそこ、木がいっぱいある代わりに住宅地でもあるからあんまりキャッキャするの恥ずかしいんだよな。遠心力で振り落とされないように再度青峰にしがみ付くと、青峰が急に空を仰いで低く呻いた。

「あー…」
「なに」
「おっぱいデカくなったな。お前」
「はあー?」

またそんな事を。

「さつきちゃんより小さいよ」
「だよなあ、お前もっと頑張れよ」
「私の胸に言えよ」
「揉んでやる」
「キモッ、ちょっと良い声で言わないでよ!キモッ」
「二回もキモいとか言うなよ」
「もう青峰にしがみつきたくない」
「いいじゃねえか。来いよ」

こんな茶番をしているうちに自転車は目的地に到着し、青峰は早速好ましい岩の上によじ登った。

「おー、いるいる。早くバケツと竿」
「まってよ、ちょっと登りづら…」
「仕方ねえなぁ、ほら」

差し出された掌と背後に見える太陽と陽炎に、何故か眩暈。

ひねくれた愛の育て方


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