こなかった。万事屋で3時間待った。神楽ちゃんと遊んで、新八君に気を使わせてしまった3時間だった。
帰り道、近道のラブホ街を通った。いつもはそんな危ないところ通るんじゃないと言われているから遠回りするけど、今はそんな気分じゃなかった。危ない事?いいよ、来なよ。そんな風に自暴自棄になっていた。本当にそんなことになったら怖くて逃げ出してしまうくせに。
そしたら来た。憎たらしい白い天パ。まだ私に気づいていない。目を合わすつもりなんかなかった。女を連れていなかったけど、こんな所に居る時点で証拠は十分だ。銀時は私を見つけた。良くも悪くも間の悪い。そういう奴だ。
私は逃げた。みっともない。けれども、そんなことを言っていられる余裕もなかった。目からは涙が出た。余計にみっともなかった。怒りと悲しみがごちゃごちゃになった。堅苦しい着物のまま私は走って逃げた。下駄がなる。からんころん、きれいな音で私の心は傷ついていく。
掴まれる、右手首。恐らく申し訳なさ気に下げられているであろう眉とか、どう声をかければいいのか分からないような中途半端に開いた口とか、それでも真摯に私を見つめる視線とか。そういうものを一切見たくなくて、涙を見られたくなくて振り返らなかった。こんなに傷つけられて、それでも今の彼の表情を読めてしまう自分が憎い。何も言わない私の態度を怒りと感じたのか、銀時は一言呟いた。「ごめん」それは、他の女と寝たことを謝っているのか、私をほったらかしにしたことを謝っているのか。はたまた両方か。
泣顔なんて意地でも見せたくなくて、だけど銀時に逃げ道を作ってあげられないのは可哀相だなんて日和った考えが頭をよぎって、だけど涙声なんて聞かせられない私は、どうすればいいんだろう。
「なあ、違うんだよ。待たせたのは悪いと思ってる。本当ごめん」
そう、いつも私は助けられてばかり、どこに行けばいいのかわからない私をいつも銀時が掬ってくれる。はやく何時ものわたしになれ。早く。笑え、いつもみたいに。早く、早く!
「仕事の常連にさ、偶然合って、無理やり呑まされて、やっと開放されたわけ。ほら、あっちの通りの店でさ。あそこからだとこの道通ったほうが速いだろ。これ以上待たせる訳にはいかねェと思って、そしたら」
掴まれた右手首に、ぐっと力が入った。こんなんで私を納得させることが出来ると思ってるのだろうか。それが嘘であれ本当であれ、そんな言い訳で許す女がいるのだろうか。この、かぶき町に。
「ねえ、銀時。それはさ、言い訳?建前?どっち」
「どっちて…どっちでもねえよ」
「そか。っていうかごめんね。付き合ってる訳でもないのにこんなこと聞いて」「ちょ、待て、お前誤解してるだろ」
「え?してないよ。綺麗なお姉さんとお酒呑んできたんでしょ?まだ深夜ってほどでもないし、呑みなおしてきたら?私、見たいテレビあるから帰る」
嘘じゃない。私と銀時に身体の関係なんてないし、好きだと言われたわけでも言ったわけでもない。それに今日は好きなドラマの最終回だったけど、銀時に誘われたから録画して来た。
「何言ってんだよ…お前、」
「ごめん。私、ひどいこと言ってるよねだけどさ、どんな理由があってもさ…」
かなしいよ、その一言は口から出る前に銀時の腕に潰された。
「違うって…そんな冗談でもねえ勘違いしないでくれよ。俺がどれだけお前のこと…っだと思ってんだよ。マジふざけんじゃねえ。今夜はしっかり責任とってもらいますからね」
「やっやだっ離して!ぎん」
「名前。」
もがいてた腕が、動かなくなる。銀時の声には、そういう力があると思う。
もう涙を隠すことも強がることもできなくなった私は、今度こそ銀時の胸に縋りついた。
「だってかなしいよ…言葉じゃなんにもわからないのに、私はこんなに銀時が好きで、今だって凄く悲しくて怒ってたはずなのに銀時に抱きしめられただけで、もうどうでもよくなっちゃう…。やだよ…私、だって、ばかみたい…」
「じゃあ俺も馬鹿だな。名前が凄く怒ってて悲しんでて頭がぐちゃぐちゃになってるのが分かるし、そうさせたのが俺だってのも、100%俺が悪いってのもよく分かってるけど。今俺がお前を抱きしめてて、現在進行形でそれが続いてるってのは、俺にとってすげー幸せなことなんだよ。っていうかお前がいなくなると困るんだよ。全部俺が悪かったから、俺の前からいなくなるみてーなこと、ぜってえ言うなよ…」
「……」
「こら、名前、お返事は?」
「…ねえ銀時、そしたら私たち、どっちも馬鹿になっちゃう」
「ああ?ツッコむとこそこ?…まあ、いいんじゃねえの?馬鹿上等ってんだ。」
「…うん、そうだね」

それでいいじゃない、なんてきみがしあわせそうに笑うもんだから


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