私は今、まったく心中穏やかでない。それは私の両手に包まれているこの正方形の箱のせいであり、上司のニコチン野郎のせいでもあった。綺麗にシンプルに包装された正方形に視線を落とす。肩が触れ合うくらいの距離で私の顔を凝視している沖田さんは、どこかつまらなそうであり、ほんの少し興味があるようだった。
今日、5月5日。こどもの日。ゴールデンウィーク。あの人の誕生日。
うざったい位天気がいい。縁側にもぽかぽかと陽気が流れ込んできていて、外に放りだした私の足をてらてら照らしている。
困った。泣きたい。死にたい。前の休みにまるで恋する乙女のように誕生日プレゼントを選びに買い物に行った自分を叩きまくりたい。眼を覚ませとどなりたい。
ゴールデウィークなのだ。警察は世間一般が休みであるほど忙しいものなのだ。
ああどうして。どうしてこんな日に生まれやがった土方コノヤロー。
「そりゃ、完全にやつあたりでさァ」
「…わかってるよ」
沖田さんが居なかったら泣きそうだ。きっとだから沖田さんは私の傍にいるんだろう。私に、言外に言ってくれてるんだろうな。こう見えて優しいひとだから。
「何言ってんでィ。俺ほどヤサシー奴なんて滅多にいねェですぜ」
「あー、うん。そうだね」
どうしてさっきから沖田さんは私の心を読んでるんだろう。そんなにわかりやすいだろうか、私。
いや、そうじゃない。今は土方さんの誕生日プレゼントをどうやって渡すかを…。
「しかし、名前も酔狂な奴だねェ」
「…そんなこと」
「奴の犬のエサを見て引かなかったのなんて、姉上と名前位でさァ」
「土方さんは、」
「遊女でも逃げ出したんだぜィ、たいしたもんでィ」
「…沖田さん、ありがとう」
「ま、さっきから俺に対してタメ口だったのは水に流してやりやすぜィ」
沖田さんは立ち上がってどこかへ行った。未熟な私にはわからないけど、きっともうすぐ土方さんがここに一服でもしに来るんだろう。渡すなら、その時しかない。でも
「…苗字」
心の準備が、足りない。
「ひっ…じ、かたさん」
「んなに驚くなよ」
「うわ、わわ私、ですね」
「…うん」
もう手の中の正方形は土方さんに見えてしまっているんだろう。土方さんの声も若干優しげだ。だったらもう、突進するしかない。
「これ!誕生日プレゼントなんで!どうぞ!!」
立ちあがりラブレターを渡す女子の如きポーズで土方さんに正方形を差し出すと、時間が止まったかのように反応が返ってこない。不安になって少し顔をあげると、にんまりと嫌な笑みを浮かべた土方さんがちゃんと居た。
「あいにく、俺が欲しいのはそのマヨ型携帯灰皿じゃねェ」
「えっ!?ど、どうして中身を…っていうか、欲しくないって…」
「俺が欲しいのは、こっち」
ぐんっと腕を引かれて、あとはまあ、ベタにベタを塗るような流なので割愛しよう。
さっきまでの憂鬱が馬鹿みたいに、私は幸せになったのだ。
人生なんて磨けば光る一生もん