私が死んだ次の日、私は成仏などしてはおらず、相も変わらず8時45分に万事屋の玄関の前に立っていた。
今、銀さんがいつも見ているニュースで占いがやっていて、それが終わったら銀さんは私の目の前に姿を表す。時にそれはゴミ捨てだったり、定春の散歩だったり、9時開店のパチンコ屋へ向かうためだったりする。そして8時46分に、私と銀さんはウツシヨとカクリヨのはざまで再会する。
噫、これが未練ってやつなのかなぁ。
だって銀さん、私がいなかったら何にもできないじゃん。
ゴミ袋はいつも3つで1つ私が持ってあげてたし、定春の散歩は暇だって言うからいつもついていってあげてたし、私が何も言わなかったら所持金全部スッてきちゃうじゃん。
気になって死んでなんかいられないよ。だって銀さん本当は寂しがり屋だし、私がいなきゃ甘いものについて語り合える仲間がいなくなっちゃうし、寺子屋の時からずっと一緒なんだから私のいない毎日なんてきっと考えられないだろうし、それに、それに…。

嘘です。ごめんなさい。今まで言ったとこは全て嘘っぱちです。ゴミ袋が1つ増えた位で持てなくなるようなひ弱な人じゃないんです銀さんは。定春の散歩だって夕方もたまにひとりでしてるの知ってるんです本当は。たとえパチンコで全部スッちゃっても銀さんにはそれをなんとかする位の力はあるんです。銀さんは確かに寂しがり屋だけど、それを埋めてくれる仲間がかぶき町にはたくさんたくさんいるんです。甘いものについて語り合う仲間がいなくたって銀さんは変わらずずっと甘いものが好きだろうし、たとえ私がいなくたって生きていけるんです。絶対に。
私は死んだ瞬間、銀さんに必要なピースではなくなってしまったような気がするんです。
そう、つまりこれは、

全部全部、私が寂しいだけ。

玄関の戸がいつものように開かれたそこには少しだけ目を腫らしたウツシヨの銀さんと、現在進行形でボタボタ涙を落とすカクリヨの私。目と鼻の先に確かにいるはずなのに、そこには絶対的なキョリがある。
銀さんは私を通り抜けて、3つのゴミ袋をもって歩いてゆく。ほら、大丈夫だったでしょ。そういうひとなんです。私がすきになったひとは。

ありがとう。ごめんね。
私が死んだ時に泣いてくれて。くだらない理由で死んでしまって。
もっとずっと生きたかった。あなたの隣で笑いたかった。ゴミ袋を手に交わすなんと言うことのない言葉たちも、定春の大きなウンチを拾いたくなくて袋とスコップを押しつけあうあの空気も、パチンコに行こうとするあなたを責めた私に向けるめんどくさそうな、それでいて憎めない表情も。全部大事なんです。成仏して忘れたりなんかしたくない。できないよ。
もう私を見てくれないあなたは、これからもずっとずっと前を見て歩いてゆく。私はここでおわり。ただちょっと運がなかっただけ。
だったらせめて、最期のお願い叶えてよ。あなたがゴミを捨ててここに帰ってきた、たったの一瞬だけでいい。私を見て。伝えたい、たったひとつの想い。

私のいのちはしあわせでした


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テーマ「人外ファンタジー」
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