銀ちゃんのバカ。

眠っている銀ちゃんの手を、そっと握ってみる。それは確かに暖かくて、眠っている銀ちゃんの身体は確かに呼吸をしていて、どうしても泣きたくなった。

わたしなんかじゃ、ダメなんだ。

きっと神楽ちゃんでもダメ、新八君でもダメ、他のどんな人にだってできないだろう。

この人を、止めることは。

寝巻きにも着替えずに、帰ってきて私の顔を一目見た瞬間、玄関で崩れ落ちてしまった。なんとか抱きとめたその身体は、泥と血で汚れていて、たくさん怪我をしていて。だけども瞳を隠したその顔は、こっちがどうしてと泣き叫びたくなるくらいの、穏やかな表情だった。

私がずるずると引きずってもちっとも起きない銀ちゃんの服を勝手に剥ぎ取り、布団に寝かせ、泥と血をふき取り怪我の応急処置をする。こんな傷、私じゃきちんと対処できないのに、何故か病院に行こうとしない。だからせめて私は、一生懸命手当てする。手当てが終わってみると、驚く程に包帯だらけ。それで顔が安らかなんだから、銀ちゃんはどうかしてる。いつ目が覚めてもいいように、冷蔵庫にプリンといちご牛乳をセットして、枕元でほつれた着流しを繕う。何回洗濯しても取れない錆色のシミを、手を真赤にしてなんとか目立たなくする。
もう、何十回も繰り返してきたことだった。

どうして、銀ちゃんは止まらないんだろう。
どうして笑うんだろう
どうして自ら身を投げ捨てようとするんだろう。

答えは、問うまでもなく私には解っていた。

銀ちゃんの目はまだ開かれない。繕い終わった着流しを畳んで仕舞い、私はすることが無くなる。そしたらどうしても、頭の中がぐるぐると廻る。

銀ちゃんがこのまま寝たままだったら?
考えたくもない未来予想図が頭から離れない。
銀ちゃん、はやく、はやく起きて。
はやく起きて、いつもみたいに私の顔を見て。ちょっと驚いた顔をして、すぐに微笑んで。包帯だらけの腕で、優しく私の頭をなでて。そしたら私は、やっと安心して泣けるから。

「…………名前」
「銀ちゃ、」
「ん、また泣いてんのか…?」

泣いてないよ、まだ。まだ、泣いてない。

「いいじゃねえか、俺達ァ、戦うだけが全てじゃねぇ」

上を向いて、目を瞑って、饒舌に喋りだす。優しいひとだ。

「お天道様の下を、笑って歩ける。俺達の特権だ」

ねえ、銀ちゃん。
私も、銀ちゃんの戦う理由にはいってる?

まもりたいものがあるから


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