夢を見た。
誰だか知らない女の子とキャッキャウフフしている夢。いや、別に卑猥なアレとかじゃなくて、すげーファンシーな感じのね。ほんわかと笑いあってるような、そんな感じの。
妙に心に残る夢だった。女の子の顔はよく思い出せない。だけど合ったことのない顔で、結構可愛かったような気がする。

ところで俺が誰かと言うと、この情報社会にケータイひとつしか電子機器を持たない貧乏学生を余儀なくされている一人暮らし高校生、坂田銀時だ。ダルダルになったスウェット姿で狭い部屋の中を移動する。起き抜けの水を一杯。なんとなく鉄分が豊富そうな水道水をのどに押し込んで、再び薄っぺらい布団にもそもそと潜る。ああ、こんな時にあの夢に出てきたような可愛い女の子が一緒に寝てくれたらなァ。単純に暖かいだろうし、心の保養にもなる。下心がないといったら、嘘になるかもしれないけど。

「それはちょっと難しいですねえ」

いきなり声がした。驚いてあたりを見回すが当然人影はない。幻聴…か?いいやあんなハッキリとした幻聴があってたまるか。ボロアパートを不穏な空気が包んだ。ごくりと唾を飲むと、電池のないインターホンを連打するカスカスした音が聞えてきた。「あれ、鳴らないですねえ」とか「壊れてるんですかねえ」とかぶつぶつ聞こえてくる。聞いた事のない、いや、たったさっき幻聴(認めたくない)で聞いた妙におっとりした女の声だ。布団にくるまってガクガクと震える俺をよそに、玄関からどこかのろのろしたノックの音が鳴った。

コン、コン、コン、コン、コンコン、コンコン…コンコンコンコンコンコンコンコンコン

絶えられなくなって布団から飛び出て玄関の扉を開く。…と誰も居ない

と思いきや視線のかなり下の方にこげ茶色の頭が見えた。

「こんにちはーお時間よろしいでしょうか?」
「え?」
「時間があんのか聞いてんだよ」

急におっとりした女の口調が変わったのでぶんぶん首を縦に振ると女はぱっと笑って「じゃあおじゃましますね」と勝手に俺のボロ城に乗り込んできた。

「単刀直入に言いますとね、生き物を作るのは難しいんですよう。」
「はあ?」
「それこそ、神様しかできないくらい。ですから、あなたとキャッキャウフフしてくれる女の子はつくれませーん」

両手を胸の前でクロスして「ぶっぶー」なんてやってくれちゃってる女を前にして、俺のあたまはこんがらがっていた。何、なんでこいつさっき俺が考えてたことわかるの?

「それでも、どうしても欲しいんだったらあ、こんなのいかがでしょう?」

差し出されたのはラブプ●ス…

「つうか待てよ、いらねえよ、お前何者だよ」
「はえ?…ああ、申し遅れました。わたくし、天使の名前です。この日本地区のなかでみすぼらしい生活をしている人間一万人のなかから抽選で選ばれたあなた、坂田銀時さまにほんの少しの恵を授けるために仰せ仕りましたあ。」

差し出されたラ●プラスを弾き落とすと、あっさりありえないことを言い始める自称天使の名前。しかしツッコむ気力も出ない。

「じゃあお前でいいわ」
「はい?」
「だからァ…天使の名前さんよォ」
「なんでしょう?」
「お前が、俺とキャッキャウフフしてくれる女の子になってくれればいいってことよ」
「それは…。」

名前はその小さくて細っこい腕を背中に回し、よくわからないがその空間からこの部屋の天井を圧迫するサイズの鎌を取り出した。

「この世界の言葉で言うところのぉ…せくはら、ですか?」
「ひゃ!?べ、べつにそんな…冗談ですヨ冗談…」

ならよかったです。とまたよく分からない原理で鎌をしまう名前。もう天使じゃねえだろコレ、悪魔もしくは死神の類だよ。

「いま、失礼なことを考えたでしょう〜?」
「え!?…つうかさ、さっきといい今といい、なんなの?天使は人間の考えてる事わかんの?」
「そんな、解る、なんて大したモンじゃないですよ?あ、今、こんなこと考えてるんだろうなあ〜って、くらいですからぁ」

そんな恐ろしいことニコニコ笑顔で言われたって恐いだけだよ。とは言えず、ふと沈黙が訪れた。

「ん〜でもまあ、いいかもですね」
「え?何が」
「ここに住むことについてですよぅ。実はわたし、新米天使なのです。人間のことや、この地球について、たくさん学ばなければならないのですよぅ。ですから、この日本地区のなかでみすぼらしい生活をしている人間一万人のなかから抽選で選ばれたあなた、坂田銀時さまにほんの少しの恵を授けるとともに、わたしの天使力向上のため、ここにホームステイさせていただきますね?」

はっきりと言おう。俺は、名前があんなに恐ろしいデスサイズを持っていると知っていたら、キャッキャウフフなんて口が裂けても言わなかった。だけどそれを告げたら、今度こそ俺の首と身体が離れてしまうような気がして、酷くかすれた声で笑うことしかできなかった。


世界はこうしてまあるくなる


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -