正直こんなのってないわ。
私と銀時は健全な高校生の男女であって、付き合ってないにしてもそれなりの雰囲気ではある訳なの。そしてこの間の体育の日、10月10日。先生達にもちゃんと許可とって教室で銀時の誕生日パーティーをした。いつもはぼへっとしている銀時だけど、クラスメイトからの信頼は厚い。パーティーはそれはそれは盛り上がり、教室の一部が破損…教室が半壊するほどのテンションの昂りっぷりだった。勿論教室を破壊したのは私ではない。銀時を銀ちゃんなんて呼んで新八君も入れて3人でいつもいる神楽と、犬猿の仲だとかなんとかいいながら結構銀時と仲のよい風紀委員の沖田。風紀委員が風紀を乱してどうすんのよ、という私のツッコミに副委員長の土方は「…まあいいじゃねえか、今日は無礼講だ…ってことにしといてくれ」と眉間に皺のよった疲れ果てた顔で言った。
そして神楽と沖田の手によって既にかなり荒らされた教室内に飛び込んできたのは銀時になにやら因縁があるという夜兎高の神威。銀時は相手にしなかったけど、神威の妹である神楽とそれまで奇跡的に大人しくしていた高杉の覚醒により、私たちの教室…そしてその周辺の教室は半壊。今日は朝からせっせとその修復作業にあたっている。
私は期待していた。付き合ってないにしろまあいいとこまで行ってる銀時との関係、あの誕生日パーティーで決着をつけるつもりだった。
しかし渡そうと思っていたプレゼントは銀時の目に映る前に沖田のバズーカによって消し炭と化し、さり気なくいつもより丁寧にした化粧は、神楽の無差別ケーキスパーキングによって無へ還った。
楽しくなかった、なんて言ったら嘘になる。私たちには、こんな風に無茶やってげらげら笑ってるのがきっと一番合ってる。
だけど銀時はモテるし――しかも綺麗な女子にばっかり。さっちゃんに月詠さん、もしかしたら妙ちゃんもそうかもしれない。ごくごく一般的な女子である私に、勝ち目なんて殆ど無くて…だけど銀時はよく私と話してくれたし、その時間はきっとお互いにとって楽しいものであったから、期待した。
銀時のせいじゃない。だけど、物凄く悲しい。
相談相手なんて居ない、こんな虚しい思いをするのなら、銀時を好きなのをやめよう。そう思った。だとしたら、私にはしなければならないことがある。
午前中に教室周りの瓦礫の移動はほぼ終った。なので昼食を食べてから続きをしようと言うことになり、私は一人で屋上に向かった。いつもは銀時と沢山の友達と教室でじゃれあうように食べるけど、いつになくしんみりした私はそんな気分には到底なれなかった。教室を出る時に、よく気のきく土方に「食わねーのか」と聞かれたから、私は無理して「こんなほこりっぽいところでごはんなんて嫌だもん」と言っておいた。そうだ、あそこはほこりっぽかったから。だから涙が出るんだ。

虚しい、虚しい。一生懸命プレゼントを選んで、不自然にならないように着飾った私を、銀時はどれだけ見てくれただろう。銀時は悪くない。誰も悪くない。誰か悪役を決めなければ成らないのなら、それは私だ。自分勝手な感情で皆に劣等感を抱いて…遠隔的に皆を振り回してるようなものだ。教室に戻ったってもとの自分に戻れる気がしない。ひとりになるとこうなってしまうのは、分かっていた気がする。だけどしなければならない。私の一方的な、銀時とのお別れ。
泣かない、泣くもんかと自分に念じながら、ケータイについたストラップを外した。ご当地キャラのトラップ全2種。これは新学期このクラスになった時に、たまたま銀時とおそろいになったストラップだった。授業中それに気づいてまだあまり親しくなくて、空回りなテンションばかりだったお互いは酷く緊張して「テメー俺のぱくってんじゃねぇよ」「ぱくってない!偶然よぐうぜん!」なんて意味もない口げんかをしていた。楽しかったなあ。
赤いビー玉がきらきら光る。私の銀時への思いも、いつもキラキラ光っていた。銀時を諦めるなら、こんなの持っていられない。捨てよう。屋上の柵に身を乗り出して大きく振りかぶると、視界に異様に綺麗な青空が映った。

「捨てちゃうの?」
聞きなれた声がする

「それ、俺にとっちゃあ結構大事なモンなんだけど」
その声が容赦なく私の心臓を抉った

「名前にとってもそうなんじゃないかって期待してた。」
石のように硬直してしまう私の身体

「…なあ」

もう一度同じ言葉を繰り返されて、私から滑り落ちたのは淡い恋心ではなく、


着飾った落日のことでした


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