「銀時おつかれー」
「ああーっ、疲れた。もうダメ、俺、死ぬ」
「えー、お風呂沸かしてからにして」
「名前ひどい」

ここはよく解らないけど廃寺。攘夷時代の俺には、高杉やヅラ、坂本達とは別に、名前とふたりだけで戦っていた時期があった。ほんのちょっとだけね。
今日も例に漏れることなく大乱闘。俺も名前もよく大した怪我もせずに帰ってきたよ。味方が自分ともう一人っていうことは、片方が怪我したらもう片方の負担が二倍になり、しかも怪我したほうを残ったほうが安全なところに運んでやらなきゃならないわけだから、大変なんだ。しかも怪我したのが名前ならまだしも、俺が怪我して動けなくなったら名前が孤軍奮闘、しかも名前より図体のでけえ俺を運ばなきゃならなくなる訳だから、怪我なんてできる訳がない。そんなことは俺も名前もよくわかっているので、無茶な戦線に足をつっこむことはしない。安全第一、的確に、自分ができるだけのことをする。

「お湯沸かすの、めんどくさいなあ」
「頑張ってくれよォ俺飯作るからよォ」
「ええー私ご飯がいい」
「やだー名前風呂な、お願い」
「仕方ないなあ…もう。」

そう言って名前は暗い廊下に消えていった。
暫く静止して、ふと作業を開始。火を炊いて僅かな野菜を刻む。雑穀?なにこれ…とりあえず米のようなものを炊きながら、野菜を雑多に煮る。そこに味噌と塩、適当になんか調味料っぽいのを入れて、ぐつぐつ煮立てる。ちょっと味見…なんて考えながら煮たものを口に含んだ瞬間、俺の身体を白い煙が包んだ。




「銀時?銀時ー?」

まだ少し幼い名前の声が俺を呼ぶ。ああ、そうだ。ここは、攘夷戦争中の僅かなあいだ俺と名前が暮らしていた寺だ。
そうだ、あの頃はまだ、あいつは敬語じゃなかったし俺を呼び捨てで呼んでたんだった。

「銀時…って、アレ?銀時?なに、そのカッコ…」
「あー、ウン、なんつーか…うーんと、えーっと」

とりあえず俺は未来の俺で、どうやらタイムスリップしてきてしまったらしいということを言ってみた。信じてくれるか怪しいが。
俺だって信じたかねえ。たまたま新八がいなくて、適当にメシ作ろうと野菜を適当に煮たやつの味見したら、こんなところに飛ばされたわけだから。

「じゃあ、え?未来の銀時?」
「ウン、そうみてーだよ」
「へえ…なんかちょっと大きくなってるかも、あと髪はのんのちょっぴり短くなってるんだね、いいもの着てるし、身体も逞しくなってる。いいもの食べてる証拠だね。よかった」

へにゃりと笑う。最近あまり見せてくれない笑みだ。不覚にも俺はときめく。

「ねえ、聞いてもいい?昔のあなたが用意したご飯があるんだけど、それでも食べながら」
「おう、いーぜ。なつかしいな、しかし」

また笑う。だけどその笑みは、なんとなく哀愁を漂わせていた。

「ねえ、戦争は終る?」
「ああ、終る」
「天人に負けちゃうんだ?」
「ああ、そうだ」
「銀時は、幸せ?」
「そうだな…幸せだな」
「この時の、今の私と一緒にいる銀時は?幸せだった?」
「名前…」

目が合った。切実な、答を待って輝くまんまるい瞳。俺、愛されてんなー、と、ちょっと場違いなことを思う。あの時は、ちょっと自信がなくなってたんだっけ。

「お前のことが大切だよ。すげー。だから、あんま怪我とか、無茶すんな。あと、もしお前がいいんだったらもっと甘えてやれ、俺、喜ぶから」
「え……うん。わかった」

名前が俯くように頷いて、汁ものを口に運ぶ。我ながらうまいな、この飯。

「それでね、一番ききたいことは今までのじゃなくてね、いや、今までのも聞きたいことだったんだけどね、それより大切な、質問があるの」

幼い。拙い。青臭い言葉を一生懸命に紡ぐ名前は、とても一生懸命に俺の瞳を見ていて、思い出した。俺はよく、人と話すとき、一生懸命に人の目を見る名前の癖に、たびたびやられていたんだった。なんだ、俺もすげー名前のこと好きなんじゃん。

「あのね、未来も、私は、銀時の傍にいる?」

すぐに口を開こうとして、やめた。言うべきでないと思ったからだ。

「ねえ、銀時」

耳に心地よい声。答えようとしない俺に、躊躇いがちに名前を呼ぶ。

「さあー?どうだったかな」
「え!?」
「そればっかは、お前ら次第だよ」

そう言ってにんやり笑うと、名前は「銀時は、ちっとも変わらないんだね」と言って笑った。

未来の彼がやってきた!

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