「これが現世の極み…!」
「気に入ったなら何よりだ」

こんにちは。俺は真選組観察方の山崎退。俺の名前は一見マイナス思考な感じに取られるかもしれないけど、この名前には「一歩さがってまわりの状況をみきわめろ」って言うちゃんとした由来があるんだよ。まあ俺の座右の銘みないなもんって思ってくれればいいよ。今俺は観察として副長と名前ちゃんの行動を見守っていた。副長は屯所の食堂に置いてある隊士が自由に使える真選組ソーセージのたっぷりつまった冷蔵庫の中からあの有名パティシエがプロデュースしたと言うショートケーキを取り出して、自分の分を名前ちゃんに差し出していた。副長が他人に優しくするなんて、空から槍が降ってきそうな出来事だ。名前ちゃんは見てるこっちが幸せになってしまうような笑みでケーキを頬張る。いつもの中二病くさいすました顔とは違って完全にうら若き少女の顔だ。

「土方君は咀嚼しないのか?」
「そんなにうめーならお前が全部食えばいいだろ」
「まあそう言わずに、なんなら私が食べさせて差し上げようか」

名前ちゃんがからかうようにそう言った瞬間、副長の顔が「ポンッ」という可愛らしい効果音と共に真赤になった。そうだ。副長は名前ちゃんに弱いんだ。腕を組んで真赤になっている副長は見ててなんだか面白い。名前ちゃんは名前ちゃんで「食わぬのなら全部私が食べてしまうぞ?ほらほら」なんて言っちゃって副長の様子はまるで気に留めていない。

「じゃあ腹も膨れたことだし、私はお暇させていただくよ」

そう言って名前ちゃんが立ち上がった。副長は「お、おう。じゃあな」と言って副長室の方へ歩いて行ってしまった。名前ちゃんを可愛がりたいなら見送れよ。心の中のツッコミを抑えつつ、こんなチャンスは滅多にないので俺は偶然を装って名前ちゃんに近づいた。

「おや、山崎さんではないか」
「やあ名前ちゃん」

職業柄演技はうまいほうだと思う。名前ちゃんはなんの疑問も持たず俺に話しかけてきた。名前ちゃんが名前を覚えてるのなんて副長か沖田さんか俺位なもんだから、たまたま通りかかった隊士が羨ましそうに俺をチラ見する。

「副長殿の仕事の邪魔をしてすまなかったな」
「いいんだ。あの人名前ちゃんが来てくれないと無理しすぎるから」

それは本当だった。いくらドンパチが好きで瞳孔が開いていても根が真面目人間だから俺達が溜めた書類も期限に遅れないように必死で自分で消化してしまう。それでもあまりの量に遅れてしまうのだけど。お頭の弱い俺達にも原因があるとは言え、最近副長は根詰めすぎだ。

「本当に、仲間思いの美しいひとだな」

つくしいものが好き

そう言った名前ちゃんの顔はなんだか大人びて見えたから不思議だ。


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