「ひっじっかったっくぅーん」
「げ」

妙に甘ったるい声に、俺は肩をすくめた。またあいつだ。俺が見回りに出るたびに必ずと言っていいほどこいつ、名前が現れ俺を"魔界"に招待しようとする困った奴だ。妙に露出が高い着物も併せて、口を閉じればそれなりに見て取れる。しかし中身が電波な邪気眼ヤローだから世話はねえ。俺が名前の声をスルーしても奴は俺にまとわりついてくる。一体どうしてこうなってしまったんだ。初めて合ったときからこいつはちっとも変わんねえ。

「今日は時間はあるかな?」
「生憎今は勤務中。見回りは散歩じゃなくて仕事だ」

名前はふむふむと効果音が付きそうな具合に頷いて見せた。分かってないようにも見えるが、恐らく分かってるんだろう…多分。「私の徘徊は趣味のような物なのだがなあ、真選組も大変なのだな」おお、分かってるぞこいつ。

「なら土方君はいつ休むのだ」
「あ?」
「君はいつも働いているではないか」
「…知らねえよ、ンなモン」

まさか、いつも俺を追い掛け回すことしかしない名前が、俺を気遣っている…?俺が小さく関心していると、「それでは休憩中の緩みきった土方君を無理やり魔界に連行することができないではないか」なんてほざきやがった。こいつ、人を気遣ってくれてんのかと思ったらまたそれか!「お、お前な…」「休みの予定が入ったらいつでも言ってくれ」ふん、と胸を張って見せるが残念ながら乳は少しばかり足りない。

「…話は変わるのだが」

こいつと居ると飽きねえよ、本当に。ころころ話変えやがって。それに振り回される俺の気にもなってみろ

「腹が減っているのだ。確か屯所の冷蔵庫にケーキがあったはずだが?」
「どうして知ってんだ!ケーキ貰ったんは今朝だぞ!?」
「ご主人様は実に優しい人なんだぞ。私に大江戸でも屈指の菓子職人がプロデュースしたという限定ショートケーキをくれると言うのだ」
「ああ総悟か…でもあいつ自分の分今朝食ってたぞ」

そう言うと名前は目を丸くした。総悟も悪い奴だな。こいつのこんな反応が見たかったのか?名前は小さな声で「何を言っているのだ」と呟いた。これはやばいかもしれない。いざとなったら仕方ねえ、俺のを…

「私の分は土方君がくれるのだろう?」
「は?」
「ご主人様が"土方コノヤローは犬の餌でも食ってればいーんでさァ"と言っておられたぞ」
「総悟の奴……」

ちごのケーキと

「土方君も食べたいのか?」
「いや、そういう訳では…」
「じゃあ半分こしよう」
「は?」

俺が取り乱すと名前は不満そうに「嫌か?」と聞いてくる。俺は甘いモンは好きではないので別にケーキは食わなくていい(さっきのはただ総悟の言動が気にくわなかっただけな)のだが、折角なので「そうしよう」と言っておいた。


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