結局その日の夜は、結局疲れもあってかぐっすり眠ることができた。まだ具体的に何をするという見通しも立っていないので、何時に起きなくてはいけないと言うこともなく、目が覚めたのは太陽が天高く昇ったころだった。自分の目が腫れているのは確認しなくてもわかったので、もう既に目覚めている銀時に見つからないように洗面所まで行く必要があった。正直場所がよくわからないのだけど、とりあえずリビングの場所はわかるので、その逆の方に進んでいった。私が無事に洗面所にたどり着き、顔を洗ってすこしはマシな顔を作ると、玄関がガタガタ鳴った。どうやら誰か来たらしい。きっとお伊勢さんだ。お伊勢さんは、おいしそうな匂いを連れている。

「あンだよ」
「折角人が食いモン持ってきてやったって言うのに、その態度はないんじゃないかい」

玄関に顔を覗かせると、お伊勢さんはお盆におにぎりとたくあん、水筒にお味噌汁を入れて持ってきてくれていた。銀時は私をみて小さく「起きてたのか」と呟き、すぐに食料を頂いてお伊勢さんを帰した。戦争中は食料も乏しくて、あったかい白飯に具の入った味噌汁、そしてつけものなんてメニューにはありつけなかった。大分懐かしい庶民的なありがたい食事に、私と銀時は丁寧に手を合わせた。おにぎりもお味噌汁もたくあんも、涙がでるくらい美味しかった。

「おいしい」
「…そら良かったな」

なんとなく銀時がよそよそしい。そんなことは共に戦線を駆け抜けてきた私には手にとるようによくわかる。美味しいごはんを頂いた後、今日は江戸散策と言う事で2人で外に出た。生活必需品なども入手しないといけない。今私たちが持っているのは刀とぼろぼろの着流しと履き古した草履だけだ。戦場に出ている時に着る血なまぐさい着物たちは最後の廃寺に置いてきた。それで戦争のヤな過去も断ち切るつもりだったけど、そう簡単には行かない。この賑わいを見せる街中に居ても、目を瞑れば鉄くさくてぬるい風が頬を撫でるようだった。


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